「カラオケ物語」
第6話「笑撃の歌い手あらわる」前編
仁木 友信=仁 立山 昇=立
所は学校、今は放課後、つい一ヶ月前だったら仁木は立山と二人で帰る時間。
でも今は違う。
「仁ー木ー君。じゃあ行きましょ!」
あのカラオケ大会以来、彼と一緒にカラオケ行こうと言う人が激増したのだ!
彼はこの半月週4回ペースでカラオケに行き、この先も1週間は同じペースで
カラオケの約束をしている。はっきり言って凄すぎ・・・。
仁「今日は何年何組だっけ?」
立「ええと・・・今日は3年5組で11人・・・かな?」
仁木と一緒にカラオケに行きたいという人は、それこそ全学年の1/3は
いるのではないかという勢いだった。それで大会が終わった翌日に
仁木の所へたくさんの人がやってきたのだ、
「仁木君、今日カラオケ行こう!」
「仁木さん、今度一緒にカラオケ行って欲しいんですけど・・・。」
「お願い、お願い、一緒に行こうよ〜。」
「仁木君。もう一回聞かせて欲しいの・・・。」
困ったのは当然仁木、いきなりこられてしどろもどろ・・・。
すると・・・。
立「STO〜P!!」
立山が一括!
あっという間に場は静かになった・・・。
立「君ら・・・仁木とカラオケ行きたいんだろ。だったら並んで並んで!」
そしたら、みんな素直に並び始めたのだ・・・。
立山は少しカリスマ性を持ってるらしい・・・。
そのおかげか、彼は3年1組の委員長を勤めている。
それに声も良く通り大きい・・・。腹式呼吸のたまものだ。
これはきっと仁木のカラオケ指導のおかげだろう。
そんなこんなで、仁木とのカラオケの取り次ぎは立山を通すことになったのだ、が・・
とにかく希望者が多いので立山はみんなに「10人以上人数を集める事」
を義務づけた。そしたら希望者のほとんどがクラス単位で集まるようになり、
現段階で仁木は約半分のクラスを制覇したのである。
週4日というのは仁木が決めた事、この辺が声の限界らしい・・・。
・・・と言うことで、今日のカラオケは終了。
ちょっと夜になってしまったが、仁木は立山と二人で帰る。
これも、もはや日課と化してしまった。
仁「今日で3年生は全部制覇かな?」
立「いや、明日が3年7組15人、それで3年生制覇になる。」
仁「そうか、7組で最後か・・・。」
仁木と同じ学年に当たる3年生は、他の学年よりも比較的早く、
カラオケの約束が出来た、やはりクラスが近いという「地の利」だろうか。
ちなみに一番早かったのは当然、「3年1組」仁木のクラスである。
そう・・・あの5人の働きだ・・・(大会編参照)。
さて、次の日の放課後、いつものように仁木と一緒に行くパートナーが
3年1組に集まってくる・・・。速攻で仁木は教室の外へ・・・。
仁「おまたせ!」
仁木の登場で、教室の外は歓声で響きわたる。
ついで、立山が現れ人数確認を行っている。
立「うん、15人ちゃんといるね・・・・。では行こう!」
仁木と立山を先頭に、総勢17人は歩き始めた。
列は校門を通ってカラオケBOXへ、歩いて5分の所にある。
張り切っているせいか、仁木は小走り気味だったので予定よりも
早くついてしまった。でもこれもいつもの事なのである。
立「は〜い、それでは今から中に入ります。一応4時間で予約してあります。
会費は・・・え〜と・・・一人350円です。僕んとこにお金払ってから
中に入って下さい。部屋は左の奥の方の大部屋で〜す。」
ここのBOX料金体制と今回の会費の計算は次のようになる。
平日夕方からのカラオケは、一部屋1時間1000円。
しかし、大部屋だとそれの500円増しになる。(普通8人以上で使用)
・・・と言うことで4時間で6000円となる。
それで一人350円だと、17*350=5950円となる。
50円足りないのだが、その辺は常連さんと言うことで
店の人がおまけしてくれるのだ。
さて、ここで大事な事は「主賓もちゃんとお金を払う」と言うことである。
週4回呼ばれるとは言え、結局たくさん歌うのは彼なので、
お金を払わないのは気が引けるのだ。大抵の人が「仁木君は払わなくて良い」
と言うが、彼はその言葉には決して乗らないのである。
・・・でも、こういう計算だと最高で一日500円払わなければ
行けないときもある。こういうのが週4日続き、一ヶ月行くと・・・。
平均400円と考えても、6400円になるのか・・・・。
普通の高校生にはちょっと厳しい出費になるかも知れない・・・。
でも・・・仁木曰く。
仁「みんなとカラオケ行くのが一番楽しいんだから、そのための出費は気に
ならない。ちゃんとバイトもしてるし、欲しい物があるわけでもないし。」
仁木は出来た人だな・・・。
立山もまた同じ境遇だが・・・。立山曰く。
立「とにかく、今はあいつの歌を聴くことが一つの勉強だと思ってるし。
まあ・・・授業料だと思えば安いもんだよ・・・たまに歌うし。」
仁木は立山のカラオケの師匠なのだ。
さて、今回のカラオケのパートナーが次々と中に入っていく。
そして、最後の一人。財布からお金を取ろうとゴソゴソしている。
「おっと・・・。」 チャリンチャリン
小銭を落とした。立山が拾うのを手伝う。
「あ・・・ご・・・ごめんねぇ・・・。」
立「いいよ別に、はい。」
落としたお金を拾い彼に渡す、その時立山は彼の顔を見た。
立(・・・・・あ・・・あれ・・・?)
「ああ、どうも・・・ありがと〜、んじゃ中はいる〜。」
彼は、中に入っていった。立山は
立(あれ・・・あいつ・・・どっかで見たような・・・。)
ちょっと首を傾げつつ、部屋の中に入った
部屋の中ではすでに、最初の歌が始まろうとしているところだった。
一曲目は3年7組の誰からしい。仁木ではないのだ。
「仁木に連続または一曲おきに歌わせない事」
これが、仁木とのカラオケの唯一の条件である。
これは、仁木だけに歌わせるというのは良くないと言う事と、
仁木の喉を持たせると言う、立山の配慮なのだ。
やはりみんなで歌って楽しむのが大勢カラオケの大前提なので、
この条件ははずせない。
さて、一曲目からタンバリンなどで異様な盛り上がりを見せる会場で、
立山は仁木に話しかけた。周りがうるさいので耳元で・・・。
立「なあ・・・あいつ・・・見たことないか・・・。」
立山が指を指す。仁木がその方向を見る。
すると・・・。
仁「あ〜!あいつじゃん!携帯哀歌の人だぁ!」
かなりの大声だったが、会場の盛り上がりによりそれはかき消された。
立「え・・?けいたいあい・・・・・・あ〜!なるほど!あいつか!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あなたは覚えているだろうか。大会で東京プリンの「携帯哀歌」を歌い、
観客を爆笑の渦に巻き込み、さらに、その実力が評価され見事第5位に
選ばれたあの男を、そう、彼の名は・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「堅野 慎。」
仁「え・・・?」
隣の男が声を掛けてきた、どうやら彼らの声が聞こえたらしい。
「今、堅野の話してたんやろ。あいつ俺の友達なんやけど、
とにかく、面白い歌たくさん知ってて、あいつとカラオケいくと
すっごい盛り上がんだよ。もう笑いまくり。次の日腹筋肉痛になるよ。」
仁「どんな歌歌うの。」
「・・・それは聞いてのお楽しみ、マジでくるよ。」
さて曲は進み3曲目、いよいよ仁木の出番である。
周りは静かになり部屋の雰囲気が少し変わった。
そう、ほとんどの人が彼の歌を聴きに来たのである。
彼の最初に歌う曲は・・・・。「終わりなき旅」
〜〜♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪歌唱中♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪〜〜
間奏に入るごとに惜しみない拍手。やはりもの凄くうまい。
〜♪〜時代は混乱し続けその代償を探す、
人はつじつまを合わすよに形にはまってく、
誰の真似もすんな、君は君でいい、
生きるためのレシピなんて無い・・・・・・無いさ〜♪〜
あ・・・一人涙を流している・・・。
仁木の歌の気持ちが彼女に心にもろに伝わったんだ。
仁木は歌によって、その歌い方や振りや表情までも変えてしまう、
そんな感じで昨日も4人の女性を泣かせてきたのだ。
このカラオケの会を始めてから、一体どれだけの人が泣いたのだろう。
「・・・・65人目・・・。」
実はその辺を立山がカウントしていたりする。その時その時の
カラオケの情勢を調べるための配慮だとは言うが・・・。
・・・こんな事があるから噂が広まり、仁木とカラオケに行きたい
という人は後を絶たないのだ。
〜〜♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪歌唱中♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪〜〜
仁木の歌が終わった。
〜〜!!〜〜!!〜〜!!〜〜!!〜〜!!〜〜!!〜〜
〜〜!!〜〜!!〜〜!!〜〜!!〜〜!!〜〜!!〜〜
あの時と同じ、割れんばかりの歓声が部屋内に響きわたった・・・。
仁木はいつものように、3方向に礼をして自分の席に着く。
「いやあ・・・やっぱり上手いね。今日は来て良かったよ。
でも・・・ああ〜ああ、次に歌うやつが可愛そうだなあ・・・
・・・って堅野じゃん!!」
その言葉に仁木は素早く反応し、身を乗り出す。
いくら素晴らしい歌が終わったばかりでも、容赦なく機械は動く。
すぐに次の曲に入るのだ。そして前に出たのは堅野・・・。
一体何を歌うのだろうか?
〜to be continued〜
次回、いよいよ堅野が歌う。友達が言う面白い歌とは何なのか?
そして、その時とった仁木の行動は?この後仁木は何を歌う?
波乱と爆笑の予感、次回「笑撃の歌い手あらわる」後編お楽しみに!
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