「カラオケ物語」 第6話「笑撃の歌い手あらわる」後編
仁木 友信= 立山 昇= 堅野 慎= 3年7組とのカラオケ、ここで表れた大会5位の実力者登場! そかしその出番は仁木の歌った後・・・。さぁ、何を歌うんだぁ!! ほとんどの人が、前の仁木の歌の余韻に浸っている中、前に出た堅野、 次の順番だとしっかりと分かっているようだ。 前奏が流れる・・・・。なんか古い歌のイメージが・・・ 堅野はゆっくりとマイクを上げた・・・。 〜♪〜ここだけの話をあちこちでする、あ〜あ〜あ〜ぁあ〜小市民 〜♪〜 周りはいきなりの出来事に一瞬静かになったが、 次の瞬間、笑い声がこの部屋を支配してしまった・・・。 な・な・な・何だこの歌は〜!? この如何にもありがちなシチュエーション が次々に出てくるこの歌は、こ・・こんな歌があるなんて・・・。」 「す・・・凄い、やっぱり堅野君は凄い人だったんだ・・・。 まさかいきなり『小市民』を歌うなんて・・・、そ・・それも・・・。」 「『小市民2』あいつの得意技、これを初めて聴いて笑わない奴はいねぇぜ。」 〜♪〜家族の誰もが開けられなかった『ご飯ですよ』のふたを開けると得意がる    ビデオ録画セットしたのに野球が押して、見たい番組途中で消える〜    机の角で足の小指打ち、一人で泣いてる小市民〜    分かっちゃいるけどやめられない、あ〜あ〜あ〜やめられない。 〜♪〜 「それに・・・この面白い歌い方は・・・笑いの神髄を極めてる。 何が面白いのか、どうすれば笑ってくれるのか、ちゃんと分かってるんだ。 これにはかなわないよ・・・。」 深い納得の表情を見せる仁木、それほど彼の歌は洗練されているのだ。 笑える歌とはいえ、ただ歌ってるだけではその歌の面白さは伝わってこない、 それを、独特の歌い方や手振りなどで表現することで、面白さをアピールする、 それにより、その歌の真の面白さが伝わり、腹が痛くなるくらい思い切り笑わ せることが出来るのだ、その方法は仁木の『感動させる歌い方』によく似ている。 今、「笑い」と言う点で歌い手と聞き手の心が一つになった。 それは正に、「カラオケを楽しむ」最高の図式の出来上がりである。 つい前に歌った、仁木も同じ様な事をやってのけたのだが、 こちらは真に「笑い」を求めたエンターテイメントである。 その事を、頭に置いた上で話の続きに戻ろう。 堅野が歌う「小市民2」は、1フレーズごとに「どっ」と笑いが押し寄せる、 中には面白くないフレーズもあるが、そこは軽い振りでカバーしてるようだ。 それでありがちなイメージを思い出させて、笑いに結びつけている・・・。 笑いというのを「理論」で分かっていないとその辺は難しい、正にプロの仕事。 〜♪〜無意識に歌を口づさみ、途中までしか知らない小市民    靴を履いたまま膝で歩いて、忘れ物を取りに行く小市民    分かっちゃいるけどやめられない、あ〜あ〜あ〜やめられない    あ〜〜〜〜小〜市〜民                〜♪〜 堅野が歌い終わると、周りからは仁木に負けないくらいの惜しみない拍手が 与えられ、堅野はニコニコしながら自分の席に着いた。 そこへ仁木が近づいてきた。 「堅野君!!凄いねぇ!こんな面白いの初めて聴いたよ!」 「いやぁ〜〜〜そ〜んなこと無いって〜〜〜まだまだやって〜〜〜。」 「いやいや僕にはあそこまで、面白くは歌えないよぅ。」 「う〜〜〜〜ん??どないかね?」 堅野はいきなり、隣の女の子にふった。 「えっ!そ・・そんな・・ふ・・二人とも上手かったよ、うんうん。」 「だってさ。」 「あ・・・はぁ・・ど・・どうも・・・。」 仁木は下がっていってしまった。 (なんか、うまくやり込められたような気がするな・・・) そんなこんなでカラオケは進んでいった。 公約通り、仁木は3回に一回以上は歌わなかった。 その間は正に仁木の独壇場・・・と言いたいところだが、 普段のカラオケならまず間違いなくそうなんだが、今回は堅野がいる。 この二人によりBOX内は「感動」と「笑い」が交錯していた。 「よし、次は山崎まさよしの『僕はここにいる』だ。」 「じゃあ、僕は『エキセントリック少年ボーイのテーマ』で。」 「お次はGLAYの『ずっと二人で』」 「では、『おら東京さ行くだ』でも」 「え〜〜い!ラルクの『虹』はどうだ。」 「それじゃあ『ホネホネロック』で行きましょう。」 カラオケが始まり2時間が経過・・・。 仁木と堅野はまだまだ凄い元気なのだが・・・・。 「ぉお〜い・・仁木ぃ〜・・・回りよく見てみろよぉ・・・・。」 ふと周りを見渡すと・・・。聴いてるだけの人がほとんどのはずなのに・・・。 み〜んなぐったりしてる。 「こ・・・この状況は・・・一体・・・」。 とにかく「笑い」と「感動」の繰り返しで心が動かされっぱなしで・・・。 それも心を動かす種類が違うわけだから、精神的にかなり参ってしまったようだ。 「・・・ハァ・・ハァ・・・二人とも・・・凄く・・良いんだけど・・・・ 感動しすぎて・・・む・・胸焼けが・・・ゥプッ・・・。」 「ウウウ〜・・・凄すぎるよぉ〜〜、私もうだめぇ〜・・・。」 「え〜〜ん、仁木く〜ん、もう勘弁してぇ・・・。」 「あららぁ〜これは大変な事になっちゃったねぇ〜。」 「いままでそんなこと無かったけど、ちょっと休憩入れようか。」 「それじゃあ、休憩がてらに一曲聴かせて・・・。」 やめぃ!!」 何人かは外に出て風に当たり、BOX内は仁木と堅野以外の人が歌っていた。 とは言っても歌う気力があったのは、男二人と立山だけで女は全滅である。 その間、仁木と堅野もBOX外に出ていた。 「やっぱりぃ〜、仁木君は凄いね。今日来た女の子いってしまっとったやん。」 「そ、そんな事ないよぉ、堅野君の面白い歌の方がよっぽどキテるよぉ。」 「んふぅ〜♪、どうかなぁ〜?」 ちょっとふざけた態度の彼に、仁木は少し真剣に質問した。 「でも・・どうしてこんなに上手いの?誰かに教えてもらった?」 「・・・・・・・・・・上手いかどうか何て、そんなの関係ないんだ。」 「えっ?」 「元々ぉ〜、人を楽しませるの好きだったしぃ〜、みんなが笑ってくれれば それで良いんだ、でも僕って話すのヘタだしぃ〜。僕にはこれしかないから・・。」 「そんな・・・そんなこと言ったら僕だって歌しかない男だよ。でも、 僕はそれでも良いと思ってる。これでみんなが感動してくれるならね。」 「似てるね。」 「そうだね。」 二人はまた部屋へ戻った。 部屋の中を除いてみると、何人かはすでに部屋に戻っている。でもまだ半分位。 「ん・・・。」 立山の歌声が聞こえる。TMNの「Beyond the time」だ。 あの日から3ヶ月・・・、彼の歌も凄く良くなった。 自らの努力と、仁木と言う名の師匠のおかげである。 〜♪〜ああ、もう一度君に巡り会えるなら    メビウスの空を超えて、Beyond the time〜♪〜 歌い終わると、いろんな所から拍手がなっていた。 照れ笑いを浮かべる立山。上手くなった実感がそこにあるのだ。 「上手くなったね、TMNはこれで完璧に近いよ。」 「ああ、後はもっと曲を覚えることが大事・・・なんだろ?」 「その通り! 一通り歌えるようになったら、後は種類を増やして 幅を利かせる。そうすれば、もっともぉーっと、楽しめるよね。」 「へぇ〜。」 「ん・・・?」 「指導してんだぁ・・・、それもすごい的確じゃん。さっきのTMNも、 声の感じピッタリ、君のアドバイスでしょ?やっぱマスターは違うなぁ。」 今度は仁木が照れ笑い。 「あ・・イヤそんな・・・。」 「そんなマスターに一つ提案があるんだけどなぁ。」 「え・・・?」 不意の言葉に、ちょっと戸惑う。 「感動する歌も良いけど、変わった歌も歌って欲しいんだけどなぁ・・・。」 「なぁんだよ、仁木なら簡単なことじゃんよ、なぁ仁木!ってあれ?」 仁木は少し困った顔をしている、 彼は確かに歌の知識量は非常に多い。しかしこれらのほとんどは、 感動系のバラードもしくはノリ系のポップなのだ、変わった歌は ほとんど知らない。だから悩むのも無理はない・・・。その上、 知ってる歌もあるのだが、前の二時間で堅野がほとんど歌ってしまったのだ。 「『小市民2』歌ってるから『小市民』もダメだよなぁ・・。」 「ご・・・ごめん。あんまり無理しなくていいよぉ・・・。」 堅野は仁木に行った、すると・・・。 「イヤ!ちょっと待って・・・あれなら面白いかな・・・。」 とっさにその曲が入ってるかどうか調べる・・・あったようだ! 「OK、やってみるよ。」 立山が肘でつつく。 「おい、大丈夫なのか。お前そう言うの苦手なんだろ?」 「・・・たぶん大丈夫だと思う、初めて歌うけどね。」 「そ・・それじゃあ、その歌は最後に歌ってもらう事にするから・・。」 人も大分戻ってきた、周りも最初の時と同様の盛り上がりを見せ始める。 さて、ここからカラオケ第二部の始まりである。 対極の二人の本気モード始動! 「よし、それじゃあまずラルクの『Dive to blue』」 「それなら・・・。『日影の忍者勝彦』で。」 「黒夢の『Like A Angel』はどう?」 「『パタパタママ』って知ってる?」 「こうなったら歌っちゃうよぉ「Tomorrow never knows』!」←大会で歌った。 「そっちがその気なら『相談天国』いかせてもらっちゃうもんねぇ!」 はっきり言って二人ともムキになってます・・・。 聞き手もそろそろ限界になってきた頃・・・。電話が鳴った。 でたのは立山。 「ハイ。あ、ハイ分かりました。ああ結構です。それじゃあ、ハイ。」 電話を切る。立山はみんなに向かって、 「ハイ、残り15分で〜す。」 「15分か・・お互いぃ最後の曲になるねぇ。」 「そうだね、堅野君は何を歌うの?」 「う〜ん、最後はねぇ・・。やっぱりこれかなぁ。でぇ、仁木君は?」 「変わってる歌でしょ。たぶん知らないと思うけど、これ。」 「これぇ?確かにこれは知らないなぁ・・・。どんな歌ぁ?」 「それは・・・聴くまでのお楽しみにしとこう、たぶん面白いよ。」 お互いが最後の曲を入れて、いよいよ残り十分、最後の二人となった。 セミファイナルは仁木が先行、歌う曲目は・・・・。 「・・?・・・?・・・・?・・・・?・・・?・・・・?・・・。」 みんなが題名を見て不思議そうな顔をしてる。みんな知らないのだ。 アニソンでもなく、演歌でもなく、マイナーな歌手でもない。 みんなのよ〜く知ってる歌手のはずなのに、聴いたことのないフレーズ。 基本的にバラード系の歌手、しかし、こういう歌も歌っていた。 この時点で、ここまでの意外性を秘めている、その歌の名は。 「ガムシャラバタフライ」 〜♪〜Evreyday! またとりとめもなく幻想追って    誰もまだ見てない桃源郷、    Every Night! また高カロリー気味な願望抱いて    頭にはみ出してるコレステロール        これは俺じゃない、そんなはずじゃない、    それは君じゃない、せとぎわガムシャラバタフライ!!    グッバイアミーゴさようなら、エスケープアミーゴいち抜けた    グッバイアミーゴさようなら、エスケープアミーゴもうやめた               (ひと呼吸) (速)あれもこれもどれもそれも何もかにもほしがってちゃ身がもたないねぇ〜                                  〜♪〜 会場は驚きの声と笑い声と感嘆と拍手が混じっていた。 人それぞれに、この歌の捉え方が違うようだが、 ただ言えるのは、ほとんどの聞き手がこの歌に衝撃を受けたと言うことだ。 普通のノリ系ポップとは違う雰囲気、ラップとも違う、 この感じたことのない音に、聞き手は心の動きを隠せない・・。 「な・・なんだこの歌は・・・速い、速すぎる。」 「をあぁ〜すげぇ〜、何だよこれぇ〜、なんて楽しぃ歌・・。」 〜♪〜Everyday! 誰に断りもなく勝手にやって    Everyday 誰のことわりもなく勝手にやって    一人でひらきなおる 洗面所    Every night また低カロリーな欲望持って    せめてあなたと竜宮城    グッバイアディオスさようなら、エスケープアミーゴいちぬけた    グッバイアディオスさようなら、エスケープアミーゴもうやめた      あれやこれやどれやそれやなんやかんやゆわれたかてこれしかないよぉ                                  〜♪〜 ジャンジャジャジャジャジャジャン! 簡潔な終わり方にこれまた不意をつかれる、 一瞬の間があって、 そして歓声と拍手、仁木はいつものように3方向に礼をして戻る。 「な、なぁ、今度この曲教えてくれんか?めっちゃ良い曲やん。」 立山が興奮気味に言った、仁木は黙ってうなずいた。 そして、トリを飾るのは堅野、歌は「大迷惑」 盛り上げて明るくしめるには、とても都合のいい曲である。 マイクはふたつ持って、サビの部分で会場に向ける。 みんなで大合唱だ。無論仁木もコーラスで参加する。 そしてその盛り上がりの中、この4時間に渡るカラオケ会は終わった。 「仁木君!もう凄く良かったよ。また行こうね。」 「仁木君、やっぱあんたは凄い!こんなに楽しいのは初めてだよ。」 あちらこちらで、今回のパートナー達が仁木に話しかけてくる。 一方その仁木は。 「堅野君。ちょっと頼みがあるんだけど、いいかな?」 「うん?何ぃ?」 「は〜い!それではこれにて解散です。皆さんお疲れさまでした〜!」 いつものように仁木と立山での帰り道、 「今日は凄かったな、あの堅野って奴があそこまでやれるとは・・・。」 「うん・・・、あいつはたぶん間違いなく何らかの考え方を持ってるよ。」 「そうかな?ただ面白い歌を並べてただけのような気もするが。」 「とんでもない!あいつ凄い考えてるよ。最後の曲だってナイス選択だったし。 歌う順番という点では、僕の方が劣性かも知れない・・・。」 「まぁ、最後はリクエストだったからしょうがないよな。」 「それと・・・あの歌い方は間違いなくプロの仕事・・。 そこまで行くと、考え無しとはとても思えないんだ・・・。」 「つまり、お前と似てるって事か?」 「そうかも知れないね。人に聴かせるための様々な方法・・・ と言うよりも彼の場合は「人を楽しませる」ための様々な方法だと思う。 カラオケはまだ、その手段の一つに過ぎないのかも知れないね。」 「あいつの場合は、お前とは目指す物が違う分けか・・・。」 「そう、僕なんかよりももっともっと幅広い考えの持ち主のはず・・。」 次の日、仁木は昨日の頼みの通り、堅野の家に音楽を借りに行った。 仁木はカラオケに行った後は決まってCDを借りに行く。 そして、そのカラオケで新しく聴いた良いと思った歌を借りるのだ。 大抵はCDレンタル屋に行くのだが、堅野とは長くつき合いたいと思ったのだろう。 彼の場合 常に新しい人とカラオケに行くことは、彼自身にとって非常に有用な事なのだ。 人との出会いは自分の可能性を広げてくれる。新しい物を与えてくれる。 その考え方が、彼の「人とのつき合いを大きくしたい」という原動力に繋がっている。 もともと人付き合いの苦手だった彼は、カラオケが上手くなりたい、 そしてみんなに聴かせたい、と言う気持ちで、ここまで来たのかも知れない。 ーENDー 曲の紹介 「ガムシャラバタフライ」 もうこのHPをよく見てる人だったら、この曲の事は知ってるよね。 山崎まさよしの曲。 基本的にスローバラードの多いアーティストだが、 こういう歌も歌っているのだ。そのギャップがかなり意外性を持っている それに、ラストの早口の所はもの凄いインパクトがある。 とにかく、上手くいけば周りを圧倒してしまうような歌なのだ。 今回仁木は「変わった歌」と言うことで今回の歌を選んだのだが、 まさしく、公約通りの歌だったと言える。 この先、仁木はこういった変わった歌も勉強していくことだろう。 堅野との出会いは、決して無駄ではなかったのだ。 まぁ、似たもの同士だしこれからも仲良くやってくんじゃないかな。


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