「カラオケ物語」 第5話「約束の歌(前編)」 バックカラー少し変更
立山 昇= 平中奈津子= 店長= カランカラン・・・・ 「いらっしぃませぇ〜・・・あ!!」 さてさて、学校祭も無事終わり。いつも通りの生活が始まりました。 でもいつもと違うのは、仁木となっちゃんの関係・・・。 あれから一週間、「たっちゃん」の仲介でなんとか誤解はとけた物の まだ釈然としないなっちゃん。やっぱりそう簡単には許して上げないの? 「と〜ぜん!!」 ・・・・・・失礼いたしました。 ・・・・・・とか何とか言いつつも、本当は仲直りがしたいというのが本音。 でもいまいちきっかけがつかめなくて悩んでるみたいだ・・・。 所は仁木と立山のバイト先のバー「Jekyll」 いつものように盛況なこのバーに、あるお客さんが入ってきた。 「・・・・こんばんは〜。」 辺りを見渡しながらゆっくりと入る、まるで初めての客のようだ。 「なっちゃん・・・・お〜い仁・・・」 バーテンの立山は、厨房の方に向かって口を向けた。 「ちょ・・ちょっと待って!呼ばないで!」 慌てて立山のいるカウンターに走る。どうやら仁木は出てこないようだ。 「・・・・どした?仲直りする気になった?」 「べ・・・別にそんな用事じゃないもん、ちょっと寄ってみただけよ。」 「ふぅ〜ん・・・俺はまたてっきり歌でも聴きに来たのかと思ったんだが。」 「そ・・・そんなこと・・・ないもん!!」 「ふぅ〜ん・・・歌には罪はないと思うが・・・・。」 「うん、私もそう思・・・。」 彼女は、ハッ!と口をふさいだ 「えっ?なっちゃん今なんて!?」 「えっ・・・そ・・その・・。思うけどぉ!仁木君はやっぱり許せなくて。」 「あれ・・・?誤解は解いたと思ったが・・・・。」 「ん・・あ・・・そ・・・そのぉ。これはこれそれはそれよ!」 ???・・・なんだか訳が分からなくなっている二人。 「・・・ま・・まあとりあえず仁木の歌聴きに来たわけでしょ。」 「う!・・・う・・うん。そう、やっぱ歌には罪ないし・・・。」 まだ言うか。 「残念だけど・・・今日は仁木お休みだよ。」 「・・えぇっ!!今日確か日曜日だから・・・二人とも9時までじゃ・・・。」 「今日は特別だ、月に一回のね。」 バーテンの仕事をしながら坦々と話す立山 すると、彼女は不思議そうな釈然としない顔して。 「・・・月に一回?・・・・・どういうこと?」 すると、今度は立山の方が不思議な顔をした。 「あれ?仁木から聴いてないの?月一回の病院の話。」 「ちょっ・・・ちょっと待って!嘘、仁木君、何かの病気なの?」 身を乗り出して心配そうな顔を立山に見せつける。 立山は笑って答えた。 「違うよぅ。本当に聴いてないのか・・・。お見舞いだよ、お見舞い。」 「お見舞いって・・・・誰の・・・?」 すると・・・・立山が少し困惑した表情になった。 (・・・あいつ・・・なっちゃんには何も言ってないのか・・・・。) 「・・・・・・?」 「なぁなっちゃん。あいつから『家族』の話って聴いた?」 「あっ!・・・そう言えば私、仁木君の兄弟の話とか何も聴いてない・・・。 確か私からは何度も話したのに・・・。その話になるといつも・・・。」 「・・・・そうか・・・・。」 立山は彼女から離れて、他の客の方に行こうとした。 その時!! 「待って!!」 彼女が立山を止める。 「どういうことなの!?それと病院とどういう関係があるの!?私・・・ 彼の事何にも知らなくて・・・イヤだよ・・私だけ知らないなんて、ヤダ・・・」 少し涙目の彼女を見て、立山は悩んだ・・・。言うべきか・・・。 しばらくの沈黙・・・・。 「・・・・仁木の両親は二人とも音楽家なんだ。」 威を決したように立山は話を始めた。 「父親はピアノ演奏の名手で、母親はオペラ歌手、仁木は小さい頃から たくさんの曲を聴いて育ったんだ。2歳の頃にはすでに何曲か歌える 歌があったって言ってた、その頃のテープも聴かせてもらったし・・・。 すげぇよなぁ。2歳って言ったらまだ言葉だって・・・・。」 彼女はかたずをのんだ。 「なんか・・・凄い話だね・・・。歌の英才教育みたい・・・。」 「その頃から歌うことが好きだったらしいし、聴かせて手自然に覚えてったって 言うのが正しいかな。でもあいつの今ある歌の基礎は、ここにあるのかも知れない。」 うんうん・・・だまってうなずく彼女。 「・・・でもあいつは、歌を本格的には勉強しようとしなかったんだ。 小学校の頃のあいつは何を歌わせてもトップクラスに上手くて、 その事だけは凄く自慢で、すっごく自信過剰になってて、 『歌なんて大したこと無い』って思ってたんだ。そしてそのまま 中学生になって、ここでもその才能をいかんなく発揮したんだけど、 やっぱり合唱部とかそっち系統の部活には入らなかったんだ。 完全に有頂天になってて「僕は誰よりもうまいんだ〜!」って感じで。」 「嘘・・・あの、仁木君が・・・。まるで下市君みたい・・・。」 「それに、当時カラオケなんて全然行かなかったんだぜ。別に無理して 歌いたい気分ではないとか言って、自分の歌に凄く価値を持たせていたんだ。」 「う・・・嘘ぉ!! 今はあんなに行ってるのにぃ!?・・・なんか 全然らしくないね、私こんな人には絶対惚れないわ。」 「そして中学校3年の頃、みんなに聴かせようと思って自分の歌を テープに録音したらしいんだ・・・。そしたら・・・。」 「そしたら・・・?」 「・・・めちゃくちゃヘタに聞こえたんだって。」 「えっ・・・それじゃあ、今まで自分で上手いと思ってたのは・・・。」 「確かに、一般レベルから見たら凄く上手いんだよ。僕がそのテープを 聴いたときもそう思った。でもあいつは自分はもっと上手いと 思ってたしくて・・・。凄くショックだったらしい・・・。」 彼女は黙っていた・・・。彼女には聞いたこともない話なのだ・・・。 「それで、その時あいつを救ってくれたのが・・・・彼のお姉さんなんだ。」 「えっ・・仁木君って姉さんがいるんだ・・・。」 驚いた表情の彼女、やはりすべてが初めて知る真実なんだ。 「他にも弟がいるけどね・・・。あいつの姉さんは、もうすごい歌のうまい人で 小学校の時も中学校の時も合唱部のエースだったんだ。普通の声楽だけじゃない、 カラオケだって下手な歌手よりもよっぽど上手くて、それで・・・あいつ そんな姉さんのことを凄く尊敬してたんだ。なんか姉さんの音楽の成績が学年2位 だったって・・・まるで自分のことのようにはしゃいでたこともあったなあ・・・。」 「実の姉を尊敬・・・よっぽど素敵なお姉さんなんだね・・・。」 すると・・・立山の顔が赤くなっていく・・・。 「あ・・・・ああ・・実は・・俺も仁木の姉さんに憧れてた・・・。 実際凄くもててたらしいしね。 前に一度カラオケに行ったことがあって、その時凄く綺麗な歌声で・・・。 歌に興味が無くったって、あれ聴いたらみんな惚れるよ!うん!」 一人納得しているたっちゃんだった・・・。 「あいつ・・・その姉さんに色々なこと教わったって言ってた。 あの事があって以来、歌に自信をなくして途方に暮れてた時、その姉さんが カラオケに連れっててくれたんだって、そこで色々な歌い方のアドバイスを もらったらしいんだよ。・・・あいつ・・・こんな事言ってた 『僕は、姉さんのおかげで自信を取り戻す事が出来た。 でも、もう今まで見たいに自信過剰にはならない。よく分かったんだ 歌うことの難しさと厳しさが、・・・これも姉さんのおかげ。 姉さんは僕の歌としての運命、それこそ人生さえも変えてしまったんだなあ。』 それからかな・・・あいつがカラオケに頻繁に行くようになったのは。」 「知らなかったぁ・・・仁木君にそんな大きな存在の人がいるなんて・・・。」 「今や仁木の歌は、運命さえも変える力を持ってると言うけど・・・。 その仁木の運命を変え、その能力に目覚めさせた存在・・・。それが実の姉だった、 普通じゃ考えられないことだよ・・・。でも、その運命というべきなら あまりにも残酷な運命がこの姉弟を引き裂いたんだ・・・・。」 立山の表情がまた悲しくなってきた。 「えっ!・・・それじゃあ病院のお見舞いの相手って・・・・。」 彼女は少し興奮気味に立ち上がった。 「・・・そう、あいつの姉さんだよ・・・。今から2年ほど前に 学校から帰る途中、信号無視したトラックに・・・ 連絡を受けたときには意識不明の重体・・・そして今もずっと・・・。」 立山の目に少し光るものが見えた。 「そ・・・そんな・・・、仁木君が・・・仁木君にとって・・・あんなに大きな 存在の人なのに・・・、そんなのって・・・仁木君が・・・かわいそう・・・。」 力無くイスに座り、カウンターに顔を埋める彼女。泣いてる。 「俺達が病院に行ったとき。包帯だらけのあいつの姉さんを見て・・・。 すげぇ痛々しくて・・・めちゃくちゃ泣いたよ・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・なんで・・・なんであの人があんな目に合わなきゃ行けないんだ!!」 ドン! カウンターを叩く立山。客が一瞬こちらを向いた。 しばらく沈黙が続く・・・。 やがて、涙も乾いてきた立山は続きを話した 「そっかぁ・・・あれからもう二年になるんだなあ・・・。 それから、あいつ毎月必ずその姉さんの所にお見舞いに行ってるんだ。 隣町の病院までね・・・。そこで眠ってる姉さんに会うために・・・。 そして『約束の歌』を聴かせるためにね。」 「ふぇっ?『約束の歌』?」 さっきまで泣いていて、いきなり顔を上げたからちょっと声が情けない。 「『約束の歌』仁木と何回もカラオケ行ってるなっちゃんなら、分かる はずだよ。カラオケに行くと必ず歌う歌が一つあるでしょ?」 「必ず歌う?・・・ああ!あの歌!!そうかあの歌が・・・・。 最初は聞いた事もない曲だったけど、何か良くて、今じゃ私の好きな歌の一つ。」 でも、なんであの歌が『約束の歌』なの?もっと良い歌あるはずなのに。」 「それは・・・・。」 その時!! 「は〜い!!おしゃべりはここまでぇ〜!ちゃんと仕事しようねぇ!」 「て、店長!!」 よく見たら、店長の目に涙の後が・・・。 「うんうん、それにしてもねぇ・・・仁木君にあんな過去があった何てねぇ。 本当は辛いはずなのに、そんな素振りさえ見せない何てねぇ、偉いもんだぁ。」 「店長・・・もう二年も前のことですから・・・。」 「う〜ん、でも2年間もお見舞いに言ってる何て・・・立派だねえ。 それだけ、仁木君にとって偉大な存在だったって事かな?」 「店長・・・すいません、仕事続けます。」 立山は、他のお客さんの所に行こうとした。 「待って!!」 「何?俺もう仕事しなきゃ・・・。」 「そこの病院の名前教えて!!」 「あ・・・ああ、新高屋町の柳川総合病院だけど・・・。」 「分かった!!」 カランカラン・・・彼女はすぐに店を出ていった。 「・・・ったく・・・許せないんじゃなかったのかよ・・・。」 すると店長が・・・ 「ちょっと立山君止めなくていいの?新高屋町って言ったらここから 電車で1時間ぐらいでしょう。今は6時だし・・・。面会時間が・・・。」 「ああ、そのことなら大丈夫です。多分時間的にはピッタリのはず・・・。」 立山は何かを知っているようだ。 さて、衝撃の真実を知ってしまった平中。 一体「約束の歌」とは何なのか?そしてその意味は? 店を飛び出した彼女の運命や如何に? 続きは次回だ! -To be continued-


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