戻る 第4話中編へ「カラオケ物語」 第4話「学生カラオケ大会(本選編)」前編 あれから三日後・・・・。 「えええええ〜〜〜!!まだ決めてねえのかよ!」 「う、うん・・・。」 「・・・・日も残り少ないってのに・・・・大丈夫なんか?」 「それが、どうも決め手が無くてさ・・・・。」 大会まで後4日、仁木の頭にはまだカラオケ大会の構想は出来上がっていない・・・。 彼は何を歌っても上手い。だから何を歌ってもそれなりの評価は得られるのだが・・・。 しかし・・・。 彼にはそれなりのこだわりがある。今回の「カラオケ大会」におけるその歌を選んだ 理由が欲しいのである。それが聞き手に対する礼儀でもあると彼は信じているのだ。 それに今回は・・・。 「仁木君!大会頑張ってね。」 「仁木〜、お前なら絶対優勝だな。」 「あの・・仁木さん・・・頑張って下さい応援してます!」 「仁木君、期待してるからね、絶対優勝してね!」 あの一件以来、彼の歌にはかなりの期待がかけられていた。 当日は、クラス全員で応援するらしい・・・。 「みんな『あの時の感動を再び』って感じか・・・。」 「ああああああ〜〜〜〜!!どうしよう〜〜〜!何歌えばいいんだよ〜〜〜!!」 彼の苦悩する日々が続いた。 二日後・・・。 一人うつむいて廊下を歩く仁木、そこに平中がやってきた。 「仁木君!おはよう!」 「・・・・・お・・はよう。」 元気いっぱいな彼女に対して、彼はいつにも増して暗い表情である。 「なになになになに〜〜〜?元気ないじゃない。どしたの?」 「曲が・・・・・。」 「え?」 「曲が決まんないんだ・・・・。」 彼の表情は見るのも辛いくらいどんよりしている。 「え・・・!ちょっ・・ちょっと、後二日しかないんだよ、大丈夫なの?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 沈黙が続く・・・・・。 「そんなに悩まなくても・・・・。何でも良いじゃない上手いんだから。 ・・・・そうだ!私と初めてあったときのあの曲なら・・・・。」 「ダメだよそんなの。」 「それじゃあ、この前のあの歌とか・・・・。」 「ダメ。」 辛そうな顔をする仁木・・・・・歌がイメージと合わないのだ。 「・・・・・・どうして!?どうしてダメなの!?いくら何でも考えすぎだよ!! 私・・・・、こんなに苦しんでる仁木君の顔見たくない!!」 「平中さん・・・・。」 見ると、彼女の瞳は涙目になっていた。 (速く決めなきゃ・・・・でも・・・何を歌う?) 彼はかなり焦っていた。 しばらく歩くと、彼らは掲示板の前を通り、そこで立ち止まった 見てみると、この前のカラオケ予選の結果がまだ残っている。 そして、学校祭のポスターも貼ってある。 「1位だね。」 「うん・・・。でもこんなにみんなの期待を背負うことになるなんてなあ。 ならなきゃよかった・・・・・いや、いっそ予選落ちになった方が・・・。」 「そんなこと言わないで!!私・・・仁木君の歌信じてるんだからね。」 (それが1番重いんだよなあ・・・・) 仁木は学校祭のポスターに目をやった。 「明日が前夜祭で、その次が文化祭でカラオケ大会か・・・。ん?・・・・ 『瞳に見えぬ未来(あす)を超えて・・・・。』サブタイトルかな・・・。」 「ああ、こういうのって毎年やるよね。サブタイトル募集ってヤツ。 私も投稿したんだけどはずれちゃったし。毎年よく考えるよね〜。あれ?仁木君?」 彼は、ポスターをじっと見ながら考えている。 その時!! 「よし見えた!」 「えっ?ど、どうしたの?」 「歌う曲決まった。もう大丈夫。」 「・・・?・・・?・・・?・・・?・・・?・・・」 彼女には訳が分からなかったが。仁木の瞳には明るさが戻っている。 「早く家に帰って練習しなきゃ。」 「・・・・・・・頼むから今日の学校はさぼらないでね・・・・。」 次の日。 「さて、どこから回ろうかね・・・。」 「・・・じゃあとりあえず一年生の校舎行って見ようよ。」 今日は前夜祭。仁木と立山が学校内を歩き回っていた。 前夜祭は、クラスや部活の出し物を見て回る事が出来る。 プラネタリウムや模擬店など、いろいろな物がある。 それらは文化祭でも見られるのだが、そこで見てたら文化祭のイベントを 見逃してしまうので、今の内に全部見て回るのが得策なのだ。 「それにしても、何で男と一緒に回らなきゃいけねえのかねえ・・・。」 「仕方ないやん、なっちゃん友達と見て回るって言ってたし・・・。」 「あ・・・あの・・・、仁木さんですか・・・。」 「ん?」 一人の少年が仁木に声をかけた。 「下市さんが、バンド演奏見にこいって・・・・。」 「えっ?あいつが!?」 「・・・うん分かった、ありごと。」 少年は去っていった。予想外の仁木の対応に立山は目を丸くしている。 「『分かった』って・・・。お前行く気か?あんな目にあったってのに。」 「うん・・・実は、あいつに言っておきたいことがあるんだ。」 そして、彼らはバンド演奏をやっている大会議室に向かった。 向かっている方向からものすごい音が聞こえてくる。 ロック部のバンド演奏の音がそこまでとどいているのだ。 大会議室前まで来ると、歌声まで聞こえてくる。 「じゃあ、入るぞ。」 「うん。」 中はこの前のカラオケ予選の時とは違って、ミラーボールが回っている 薄暗い、いかにもライブハウスをイメージしたような感じになっていた。 演奏の真っ最中だが、歌っているのは下市ではない・・・。 「おい、来たぜ・・・。」 「分かった。」 小声で何らかの動きがあった。どうやら仁木が来るのを待っていたらしい。すると 「あ、あれ、下市君だ。」 奥からバンドの衣装に身を包んだ下市が出てきた。 そして今まで流れていた演奏が終わり、次の演奏が始まる。 「あれ?この曲なのか・・・・?」 曲はルナシーの「TRUE BLUE」下市が歌い始めた。 「ほう・・・こいつうまいな。やっぱ言うだけのことはあるわ。」 「あいつ・・・・。自分で分かってんのかな・・・。」 「んっ?そりゃどう言うこと?」 「あいつには、もっと合う曲がある・・・・。」 この仁木の意味深な言葉に、立山は首を傾げていた。 やがて曲が終わり、下市にたくさんの拍手が浴びせられた。そして 「来てんだろ仁木!ちょっと上がって来い!」 下市が叫んだ。 「行って来るわ。」 「お、おい仁木!」 何の躊躇もなく彼はステージに上がっていった。観客がざわめいている。 「・・・・言われた通り来たよ。」 「仁木・・・この前は悪かったな。あの時は俺もどうかしてたぜ。 今日お前を呼んだのは、お前に俺の歌を聴いてもらいたかったからだ。 この前の詫びとしてな・・・・。」 「この歌・・・イヤ・・・この歌手の歌を明日も歌うの・・・?」 「ん・・・?ああそうだ。もともといちばん好きなアーティストだし・・・。」 「・・・・君にこんな事言って良いのか分からないけど・・・・。 WANDSの方が良いんじゃないかな・・・。イヤ絶対そっちの方が・・・。」 「な・・何!お前そりゃどういうことだ!」 下市は怒鳴って言った。すると仁木は平然と 「イヤ・・・別に大した意味はないんだけど、それだけは伝えておきたかったんだ。 それじゃあ明日、お互いベストを尽くそう。」 手を差し出す仁木。少し困惑しながらも下市はその手を握り返した。 二人にはものすごい拍手が浴びせられた。 前夜祭も終わり、帰り支度をする二人。 「全く無茶なヤツだよお前は、こと歌に関しては本当に見境無いんだから。」 「でも、伝えられて良かった。あいつは絶対WANDSが似合う。 馬鹿じゃなければ歌ってみて絶対自分で気づくはずだもん。」 「でも・・・そんな敵に塩を送るような真似なんかして・・・。」 「だって・・・あいつのWANDS聴いてみたいんだもん。 かと言って、明日それが聞けるとは限らないけどね。」 さて、いよいよ明日は文化祭、カラオケ大会の日だ。 仁木、下市は何の歌を歌うのか・・・・そしてその結果は? それは次号を待て!!