第二話へ 戻る「カラオケ物語」 第1話「歌う皿洗い」 「仁木ー、バイト行こーぜー。」 少年は目を覚ました。(そうだ!今日はバイトの日だ・・・) 慌てて髪を直し、服を着替える。 「わりぃ、今行く。」 部屋を飛び出して階段で躓きそうになりながらも、靴下を履いてないおかげで 滑らずにすんでいる。靴下を履いて、この少年の友達、立山の待ってる玄関の外へ。 「おまたせたっちゃん、行こーぜ。」 「また寝てたんだろ、今何時だよ。」 「ゴゴゴ時ってとこか?」 「ふぅー全く、俺が紹介したんだから遅刻したら俺まで怒られるんだからな。」 「わりぃわりぃ、昨日さ・・・。」 さて、午後五時まで寝ていたというこの不届きな少年、彼がこの物語の主人公 「仁木 友信」である。彼は毎週土曜日に彼の友達「立山 昇」と一緒に バイトをしている。どういうバイトかって? ここだけの話なんだけど、実はバーで働いてるのだ。 彼らは高校3年生。もしそんなところでバイトしている事が学校にばれたら・・・。 「・・・・・停学なんだからな、気をつけろよ。」 「分かってるって、でも意外とばれないもんだね。もう3ヶ月になるのに。」 「そうだよな、もう3ヶ月・・・・クックック。」 立山が思い出し笑いをしている・・・。 「何だよ、気持ち悪いなあ。」 「いやさあ。お前が入ったときのこと思い出してさ。」 「・・・・だって歌いたかったんだもん。そりゃ店長はびっくりしたけどさ。」 「そうそう、あの時の店長の顔ったら・・・。」 そんなこんなで、仁木達はバイト先についた。 仁木の方は調理場で皿洗い、立山の方はカウンターでバーテンダー。 「ちぇっ、俺もバーテンの方が良かったのにな。」 「仕方ないだろ、それにお前は・・・・。」 「分かってる、例の『条件』が利いてるからね。」 1時間後、店はお客さんで大にぎわいになった。 立山がお客さんにカクテルを作ってるのを横目に、仁木は皿を洗っていた。 「ちぇっ・・・でも、11時になれば・・・・。」 さて11時、ここで仁木の仕事は終わる。仁木はいそいそと支度して・・・。 「店長!!今日は・・・・。」 「うん・・・・・・OKだ、行って来い!!」 「はい、ありがとうございます。」 さて、ここで月日はさかのぼり3ヶ月前の話をしよう。 その日、立山の紹介で仁木がこのバーで働くことになったとき・・・。 「えーー!バーテンじゃないんですかー!」 「ああ人手が足りないのは、裏方の方なんだ。よろしく頼む。」 「・・・嫌だ。」 「仁木!わがまま言うなよ、悪くない条件じゃないか!」 「だって・・・だって俺はバーテンとして仕事が出来ると思ってたから・・・ 夢だったんだ、お客さんの前でカクテル作るの・・・。」 「確かに・・・店長そういう話でしたよね。」 「ああ・・・うん・・・しかし・・・・。」 「3枚目・・・・」 「えっ?」 「顔が3枚目だから・・・・そうかそうなんだ!そうだよな・・・。 たっちゃんはかっこいいし、俺なんかじゃあ・・・。」 「仁木・・・・。」 「すまんな・・・そういうことだ。裏の方も人手が足りなくて困ってるんだ 手を貸してくれないか・・・・」 「条件があります。」 「えっ?」 「ここってカラオケがありますよね・・・。それを歌わせてくれませんか。 僕の仕事が終わるのは11時、だからそれが終わった時に。」 「はぁ?」 店長は変な顔をした 「僕はカラオケが好きなんです。どんな時にどんな曲を歌えば 良いのかとかも、よく分かってます。これで引き受けてくれなかったら・・・。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・。」 「店長・・・・・・。」 「こっちからも条件がある・・・・。」 「それで『歌うときはサングラスをしろ〜』だって。 全く、あくまでも顔にこだわりやがって、あの店長・・・。」 「でも、今ではここの一大イベント。店長もそろそろ頼む側に回るんじゃねぇの?」 そう、この彼の無理難題を通して以来、11時頃に来る客も多くなったのだ。 これも、彼の選曲のセンスと、歌唱力のたまものと言える。 「たっちゃーん。客の具合はどんなもん〜?」 「そうだなあ、今日は結構女性が多いかな。」 「OK!じゃああれにするわ。グラサン取って。」 いそいそと仁木はカラオケの設定をする。すると・・・。 カランカランカラン・・・。 「あ、いらっしゃーい。」 一人の女性客が入ってきた。 「こんにちは〜、あれ?立山君?」 「え?あ、あああ〜〜ああ。確か二年の時一緒だった・・・。えっとお名前は?」 「平中 奈津子。一応風紀委員なんだけど・・・・。」 「へぇ〜、風紀委員のなっちゃんがこんなとこに来て良いのかなぁ〜?」 「・・・・あんたも言うわね、この状況で。ばれたら停学よ。」 「・・・・内緒だよ。」 「当然でしょ。こんな面白いこと・・・。」 カラオケの音が鳴り響く、仁木のセットした曲の前奏が始まった。 「へぇ〜、ここってカラオケもあるんだ・・・。」 「お前・・・顔赤いぞ、飲んできたんだろ。18歳のくせに。」 「まだ17歳!!」 「うわ〜絡んできたぁ!」 〜♪〜it's just time to say good bye....uuun...time to say good bye〜♪〜 仁木が歌い始めた。曲は「夏の憂鬱」(L'Arc〜en〜Ciel) 「なにあれ。サングラスなんかしちゃって、カッコ悪〜。」 「ほらほらなっちゃん。おいしいカルアミルクが出来たから・・・。」 (・・・・・本当はコーヒー牛乳だけどね) 「おいひぃ〜。」 「ふぅ〜それにしても、今日も仁木の奴気合い入ってんなあ。」 〜♪〜夏の憂鬱に抱かれ、眠りを忘れた僕は、揺れる波打ち際に瞳奪われ頬杖をつく、 君が微笑みかける、そよぐ風に吹かれた、そんな過ぎ去った日の幻を追いかけていた、 眩しいこの日差しの用に鮮やかに僕を照らしていたのに・・・・・・ it's just time to say good bye uh uh time to say good bye 揺らめく季節へ告げた。 忘れかけてた優しさつれて、明日へ一人歩いてゆくよ。 夏の憂鬱は君を見失った、僕に降り積もる。〜♪〜 そこら中で感嘆のため息が聞こえる。凄いと言う言葉さえ出てこない。この人を除いて。 「うわぁ〜、うま〜い、すご〜い、ねぇねぇあの人誰ぇ〜?」 (ミルクで酔ってるよこいつ・・・) 仁木の歌は続いた。観客は皆シーンとして彼の歌を聴いている。 彼女でさえその例外ではなかった。そして曲は間奏に入った。 「ちょっ、ちょっとちょっと、マジで凄いよ。本当に誰なの。」 (お、醒めてきたかな?)「ああ彼はね・・・・。」 その時!! 〜♪〜そして・・・眠りを無くした。〜♪〜 「はっ!!」その瞬間彼女の瞳が大きく開いた、「うぅ・・わ・・ぁ・・。」 〜♪〜そして・・・あなたを無くした。 そして・・・翼を無くした。haa aa そして・・・光を無くした。 すべて・・・愛していたのに、 すべて・・・壊れてしまった。 Oh...何を・・信じて歩けばいいの・・僕に降り積もる。 夏の・・・憂鬱。〜♪〜 パチパチパチパチパチ・・・・・・ 仁木は観客からの暖かい拍手を受ける。 「ふぅ〜、この曲はやっぱ最後が聞かせるよなぁ。ここの音響もバッチリだし。 さて、なっちゃん・・・・あれ?・・・なっちゃん!!」 彼女は動かなかった。 「寝ちゃったかなぁ?でも目は開いてるし・・・。」 「お〜い、たっちゃ〜ん。」 その声で彼女はやっと反応した。仁木が近づいてくる。 「どうだった・・・。あれ?誰この娘?目に涙ためちゃって・・・。」 「ああこの娘は・・・。」 ガタン!! 彼女は急に立ち上がった。 そして、仁木の前に立ち。 「えっ。」 彼女はそっと彼の唇に・・・唇を重ねた。 仁木は動けなかった。立山は呆然としていた。 そのまま、どれくらい時間がたったのか分からない。 彼女は、店を出ていった。 しばらく2人は静寂のまま動くこともなかった。そして。 「いつか、こんな日が来ると思っていたぞ。」 割って入ったのは店長だった。 「歌で女を落とすなんてすげぇじゃねぇか。これからも歌ってくれるんだろ?」 でも、2人は店長の言葉を無視して・・・。 「たっちゃん・・・、今の・・・なっちゃんだよね。」 「・・・・ああ。」 「・・・・・・・・ごめん。」 「・・・・いいよ気にするな。」 「今でも好きなん・・・。」「気にすんなって言ってんだろ!!!」 「・・・・・俺、先帰るわ。」 仁木は店を後にした。 一週間後・・・。 仁木は平中と一緒に町を歩いていた。 「ごめん今日バイトだから、この辺で・・・。」 「そっか、それじゃあまた明日ねバイバイ。」 バイト先についた彼は、少し戸惑いながらも中に入った。 「・・・・・こんばんは。」 すると、 「遅い!!紹介したのは俺なんだから、怒られちまったじゃねえか。」 「・・・・・ご、ごめん。」 「いいよ、デートだったんだろ。どうなんだようまくやってんのか?」 「・・・・・たっちゃん。」 「・・・・・・俺が何時までも根にもつタイプに見えるかよ。それに 俺の彼女だったわけじゃないんだから・・・、もう気にすんな。・・・それより。」 「・・・・それより?」 「俺にもカラオケ教えてくれよな。」 ーENDー 曲の説明 「夏の憂鬱〜time to say good bye〜」 知る人ぞ知るラルクの歌である。 この曲の特徴は、まずかっこいい歌であると言うこと。 それと、サビと最後の部分とで、山が2つあると言うことである。 特に最後の所は思いっきり熱唱できるポイントで、一番聞き手の胸に響く。 その胸の響きに、彼女は心まで奪われてしまったのだ。 仁木は女性が多いと言うことで、そういった心にまで響く位強く それでいてかっこいい歌を選曲したのだ。 しかし、いかんせんラルクである。難易度は当然高い。