生化学講義第六回
核酸とヌクレオチド代謝
教科書40ページ
核酸(ポリマー)とヌクレオチド(モノマー)
核酸とは何か
細胞核から見つかった酸性の物質ということで核酸と名付けられた。
教科書41ページ
(図2-20の説明)
核酸には( )と( )がある。図の真ん中の五単糖と書いてあるところを見てください。塩基における炭素原子の番号と区別するため、糖の炭素原子の番号には‘(ダッシュまたはプライムと読む)を付ける。塩基が付いている炭素C1を1’とする。C2(2’)に付く-OHがHになった糖がデオキシリボース。デオキシリボースのC2’の赤いHとリボースのC2’の青いOHが違うところ。たったこれだけの違いだが、進化的にはRNAが先。RNAは不安定で変異しやすい。(たとえばコロナウィルスやインフルエンザウイルスはRNAウィルスで変異しやすい。)一方、DNAはRNAの進化形であり安定しているので遺伝情報を伝えるのに適している。
塩基にはプリン塩基(六角形と五角形)とピリミジン塩基(六角形)がある。プリン塩基にはアデニンとグアニンがある(注:核酸のプリンはpurine、お菓子のプリンはpudding)。RNAのピリミジン塩基にはウラシル、シトシンがある。DNAのピリミジン塩基にはウラシル、チミンがある。ウラシルにメチル基がつくとチミンになる。A(アデニン)にはU(ウラシル)またはT(チミン)、G(グアニン)にはC(シトシン)が水素結合する(43ページ図2-22)。
(余談)なぜDNAではウラシルでなくチミンなのか?
チミンはRNAに含まれるウラシルからかなりの手間をかけて合成される(103ページ図4,4-5)。なぜ細胞は面倒なチミン合成を行うのか?その謎は「シトシンからアミノ基がとれてウラシルになりやすい」という性質がわかって解決した。もしDNAの塩基がTでなくUだったらCの脱アミノで生じたUなのかそれとも元はCだったのか見分けられず、変異を誘発しやすい。メチル基が付いたチミンであることがDNAの安定性につながっている。
教科書42ページ
ヌクレオチドとヌクレオシド
糖+塩基を( )という。
( )+リン酸を( )という。
細胞内ヌクレオチドのほとんどはポリマー(DNAやRNA)で遺伝情報の保存と伝達が主な機能である。
一方、モノマーとその誘導体は遺伝以外の代謝の過程でいろいろな働きをしている。
(図2-21の説明)
@
アデノシン三リン酸(ATP):エネルギー貯蔵
リボース+アデニンをアデノシン(ヌクレオシド)という。
アデノシン+リン酸をAMP(ヌクレオチド)という。
AMP+リン酸をADPという。
ADP+リン酸をATPという。
ADPとATPの高エネルギーリン酸結合にエネルギーを保持している。
A
サイクリックヌクレオチド:cAMP、cGMP
水溶性ホルモンが最初の情報伝達物質(ファーストメッセンジャー)として細胞膜の受容体に付いた後の二番目の情報伝達物質(セカンドメッセンジャー)が後の作用を仲介する。
たとえばグルカゴンが作用するときはグルカゴンが細胞膜の受容体に付くとATP→cAMPに変換されてcAMPが以降の作用を促進する。
(余談)勃起不全治療剤のシルデナフィル(商品名バイアグラ)の仕組みは
陰茎海綿体の細胞は性的刺激により一酸化窒素NOを産生する。NOはファーストメッセンジャーとして細胞膜に付いてcGMPの産生を促進する。cGMPはセカンドメッセンジャーとして陰茎海綿体および陰茎動脈の平滑筋の弛緩を起こし、陰茎海綿体の充血と勃起がもたらされる。老化によりcGMPの産生量が低下して勃起の強さや持続時間が弱まるがシルデナフィルはcGMPを分解するホスホジエステラーゼ5(PDE5)を阻害するのでcGMPが分解されずに勃起状態が保たれる。
B
そのほかのヌクレオチド:補酵素(ヌクレオチド+ビタミンB群の形)
FAD(フラビン/アデニン/ジヌクレオチド):ADP+リボフラビン
NAD(ニコチンアミド/アデニン/ジヌクレオチド):ADP+ニコチンアミドがついたもの。
NADP(ニコチンアミド/アデニン/ジヌクレオチド/リン酸):NAD+リン酸
補酵素A(CoA):ATP+パントテン酸
教科書43ページ
DNAの構造
(図2-22の説明)
塩基配列により遺伝情報が記録されている。
糖(デオキシリボース)の5’炭素にリン酸が付いてそれが次の糖の3’炭素につながる。二本のDNA鎖が逆向きに(5’→3’と3’→5’)並んでいる。
A(アデニン)にはT(チミン)、G(グアニン)にはC(シトシン)が結合する。
CとGの間に三本の水素結合−N−H…O=C−
−N…H−N−、
−C=O…H−N−
AとTの間に二本の水素結合−C=O…H−N−
−N−H…N−、
教科書44ページ
(図2-23の説明)
らせん状に巻いているので二重らせん構造という。
細胞分裂の時に一本鎖に分かれてそれぞれ複製される。
DNAの性質
加熱すると塩基対の水素結合が切れて2本鎖がほぐれて1本鎖になる。
この性質は親子鑑定に使われる。父母の血液を採取してDNAをPCRで増幅して制限酵素で切断して電気泳動する。ここに子供のDNAが付くと判定できる。図
教科書45ページ
RNAの構造
(図2-24の説明)
DNAと違って一本鎖である。
核内でDNAからメッセンジャー(伝令)RNA(mRNA)に遺伝情報が転写されて、核の外に出てリボソームRNA(rRNA)と蛋白が結合したリボソームの中でトランスファー(転移=運搬)RNA(tRNA)が運んできたアミノ酸に翻訳されて蛋白が合成されてゆく。
(余談)
新型コロナウイルスワクチンはmRNAワクチン。人体内に注射すると人の細胞がウイルスタンパク質を産生して、そのタンパク質に対する免疫反応が起こる。
教科書99ページ
核酸・ヌクレオチドの代謝
教科書100ページ
ヌクレオチド代謝の役割と概要
(図4,4,-1の説明)
アミノ酸とリボース5-リン酸とCO2よりリボヌクレオチドが新規合成される。細胞内伝達のセカンドメッセンジャー(cAMP, cGMP)、エネルギーの貯蔵(ATP, GTP)、補酵素(NAD, FAD)としての役割。リボヌクレオチドが多数つながって( )となってタンパク合成の役割。リボヌクレオチドは還元されて安定した形のデオキシリボヌクレオチドとなり多数つながって( )になる。ヌクレオチドは分解されて再利用されたり分解排泄される。プリン塩基が分解されると尿酸となり尿中に排泄される。(尿酸は水に溶けにくいので産生が増加したり腎臓の機能が低下して排泄が悪くなると関節や腎臓に沈着して痛風の原因となる。)
ヌクレオチドの合成
(図4,4-2の説明)
プリン塩基の材料:グリシン、アスパラギン酸、グルタミン、CO2
ピリミジン塩基の材料:アスパラギン酸、グルタミン、CO2
教科書101ページ
(4,4-3の説明)
71ページのペントースリン酸回路でできたリボース5-リン酸のC1にリン酸が2つ付いてホスホリボシルピロリン酸(PRPP)ができる。
( )は(1)新規合成経路:PRPPを土台にアミノ酸やCO2が付いてIMP(イノシン酸)となり、そこからアミノ基が付く(ここを阻害するのが抗がん剤のアザチオプリン)位置によってAMPかGMPが出来上がる。(2)再利用経路:アデニンやグアニンがPRPPと結合することによって再利用される経路がある。再利用系は新規合成系のように最初から合成される必要がないため、積極的に利用される。
その後AMP(GMP)→ADP(GDP)→dADP(dGDP)→dATP(dGTP)→DNAに。
(図4,4-5の説明)
( )はまずUMPができて→UDP→UTP→CTP→CDP→dCTP(→DNAに)→dCMP→図4,4-5のdUMP→ここで葉酸を介して-CH3が付いてdTMP→dTDP→dTTP→DNAに。
ヌクレオチドの分解
教科書102ページ
(図4,4-4の説明)
プリンヌクレオチドからリン酸が除かれてアデノシン、グアノシンになる。アデノシンはADA(アデノシンデアミナーゼ)によりイノシンになる。(アデノシンデアミナーゼ欠損症では細胞にdATPがたまり、dATPの毒性が免疫細胞のT細胞に強く出るため重症複合型免疫不全症を発症する。)その後ヒポキサンチン→キサンチン、グアニン→キサンチンとキサンチンに集約されて、( )により( )ができる。尿酸結晶が関節に蓄積すると炎症を起こして( )を発症する。( )治療薬のアロプリノールはキサンチンオキシダーゼ抑制剤である。食事からのプリン体(鶏レバーや白子など動物性が多い)が増えると原料が増えるので尿酸産生も増える。
アデニン、ヒポキサンチン、グアニンは再利用に回るものもある。先天性代謝異常のレッシュ・ナイハン症候群(133ページの表7,1)はヒポキサンチン、グアニンを再利用するためのHGPRT(ヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ)という酵素が欠損していてプリン塩基が再利用されないのでPRPPが増加してプリンヌクレオチドの新規合成が促進されて尿酸産生が増加する。乳児期の早期から哺乳異常、発育不良、1歳ごろから不随意運動、2歳ごろに自傷行為が現れる。高尿酸血症により腎機能低下、尿路結石を起こす。
(ピリミジンヌクレオチドはCO2, H2O, NH3まで分解されて排泄される。)
☆国家試験問題:最終代謝産物に尿酸が含まれるのはどれか。
1核酸、2リン脂質、3中性脂肪、4グルコース、5コレステロール
(答え一発1)
(余談)イカはADA(アデノシンデアミナーゼ)を持っていない。
活きたイカが元気に泳ぐのはATPを豊富に賛成しているからだが、イカが死ぬとATPを合成できないためどんどん分解されてATP→ADP→AMPとなる。普通の魚の場合、この次にADAによってAMP→イノシン酸(旨味成分)に変わっておいしくなる。活きている魚や釣りたての魚が美味しくない理由である。イカはADAを持たないため魚と同じ旨味成分はできないがイカもある程度時間をおいてからの方がおいしくなるのはイノシン酸になれなかったAMPがイカの旨味だから。
教科書103ページ
抗がん薬と免疫抑制薬の作用
がんはDNA複製の制御ができなくなって細胞が異常に増殖する状態であるのでがん細胞のDNA合成を阻害する薬は( )になる。
(図4,4-5の説明)
dUMP→dTMPを進めるチミジル酸合成酵素を阻害する5-フルオロウラシル(FU)とここでのメチル基を運ぶ葉酸のジヒドロ葉酸還元酵素を阻害するメトトレキサート。がん細胞のだけでなく正常細胞のDNA合成も抑制する。特に細胞増殖が盛んな部分が影響を受けやすい。骨髄は赤血球、白血球、血小板を作っているので貧血、白血球減少、出血傾向が起こる。毛包の細胞分裂が抑制されると脱毛、腸粘膜の合成が抑えらると下痢といった抗がん剤の副作用が出る。
(図4,4-3に戻って)
IMP→AMP, GMPを阻害するアザチオプリンはリンパ球の増殖も抑制するので( )として使われる。メトトレキサートも自分の関節を攻撃するリンパ球増殖を抑制して関節リウマチの治療にも使われる。
☆国家試験問題:骨髄抑制が出現するのはどれか。
1麻薬、2利尿薬、3抗がん薬、4強心薬
(答え一発3。)
☆国家試験問題:抗がん薬による骨髄機能抑制症状はどれか。
1嘔吐、2脱毛、3下痢、4歯肉出血
(答え一発4。骨髄での血小板産生が少なくなって止血作用が抑制される。)
☆国家試験問題:抗がん薬の副作用(有害事象)である骨髄抑制を示しているのはどれか。
1嘔吐、2下痢、3神経障害、4白血球減少
(答え一発4。)