生化学講義第五回
アミノ酸とタンパク質
教科書35ページ
タンパク質とは何か
タンパク(蛋白)とは卵の白身という意味。英語ではプロテインprotein。C,H,O,N( システィンとメチオニンだけはSも)から成るアミノ酸がペプチド結合でつながったポリマー。
☆国家試験問題:タンパク質で正しいのはどれか。
1アミノ酸で構成される。
2唾液により分解される。
3摂取するとそのままの形で体内に吸収される。
4生体を構成する成分で最も多くの重量を占める。
(1〇。2の唾液中のアミラーゼで分解されるのはデンプンなどの糖質。3×アミノ酸に消化されてから小腸で吸収される。4×水が最も多い。)
アミノ酸
(図2-16の説明)
アミノ酸は名前からわかるようにアミノ基(-NH2)とカルボキシ基- COOHをもつ。-COOHから1番目の炭素をα炭素という。α炭素のまわりに-NH2、- COOH、-H、側鎖が結合している。この場合鏡に映した状態の立体異性体ができる。-COOHを上に置いた時-NH2が左に位置するものをL型、右に位置するものをD型という。自然界では大部分L-アミノ酸(糖は大部分D-体)。D型とL型はこれだけの違いだが物質としての性質は大きく異なる。たとえばL-グルタミン酸は昆布の旨味成分であるが、D-グルタミン酸には旨味がなく少し苦味を持つ。
(余談)1908年池田菊苗博士は昆布40kgから旨味成分を熱水抽出し、約30gのL-グルタミン酸を取り出した。グルタミン酸ナトリウムの形(粉末)にして化学調味料「味の素」として商品化した。
L-グルタミン酸ナトリウム (D-グルタミン酸ナトリウム)
味の素
COOH COOH
NH2- C-H H-C-NH2
CH2 CH2
CH2 CH2
COONa COONa
アミノ基は-NH2+H+→-NH3+でH+を受け取るから塩基性、カルボキシ基は-COOH→-COO-+H+でH+を放出するから酸性で朗報の性質をもつので両性電解質と呼ばれる。
R-CH-COOH→酸性(+H+)→R-CH-COOH
NH2 NH3+
R-CH-COOH→アルカリ性(+OH-)→R-CH-COO-
NH2 NH2
教科書36ページ
(表2-3の説明)
アミノ酸は20種類ある。☆が付いているのは必須アミノ酸(体内では合成できず食物として摂取することが必要)。必ずしも覚える必要はないが「風呂場イス独り占め」(フェニルアラニン、ロイシン、バリン、イソロイシン、スレオニン、ヒスチジン、トリプトファン、リシン、メチオニン)のような覚え方がある。その他のアミノ酸は体内で合成できる。たとえばチロシンはフェニルアラニンから、システィンはメチオニンから合成されるので非必須アミノ酸という。
(余談)タンパク質を構成するアミノ酸の同定は1900年代初頭動物栄養の研究から始まり一つ一つ同定されていき、1935年に最後の20番目のトレオニンが発見された。その後20年に及ぶ実験で20種類のアミノ酸のうち10種類が栄養に必須であり、どの一つを除いても実験動物の成長が止まり、最後は死ぬことがわかった。他の10種類のアミノ酸は動物が必要量をつくることができるので「非必須」である。
各アミノ酸は独自の側鎖(R)を有する。
中性アミノ酸
グリシン(Gly/G):RはHのみで最も単純な構造。立体異性体がない。
アラニン(Ala/A):RはCH3で次に単純な構造。
( )(Val/V)
( )(Leu/L)
( )(Ile/I)
以上の3つは分枝鎖アミノ酸Branched Chain Amino Acid(BCAA)と言って筋肉の主成分。人体では枝分かれ部分の合成ができないので必須アミノ酸である。
( )(Ser/S):-OHが付くと親水性を帯びる。
( )(Thr/T):-OHが付く。必須アミノ酸。
( )(Cys/C):-SHが付く。-S-S-結合を作って2つがひとつになるとシスチンという。毛や爪に多い。
( )(Met/M):-S-を持つ。-CH3を渡しやすい。必須アミノ酸。
( )(Asn/N):-CONH2(アミド基)を持つ。-COとNH2の結合が強いので塩基性にならない。
( )(Gln/Q):-CONH2を持つ。
( )(Phe/F):ベンゼン環を持つ。必須アミノ酸。
( )(Tyr/Y):ベンゼン環を持つ。カテコールアミンの材料。
( )(Trp/W):インドール環を持つ。補酵素NADの原料。必須アミノ酸。
( )(Pro/P):これだけはアミノ基-NH2でなくイミノ基-NH-を持つので厳密にはイミノ酸という。側鎖が自身の窒素原子に唯一結合しているアミノ酸で、水素結合に不可欠のN-H結合が存在しない。そのためタンパク質分子はプロリンのところで曲がる。たとえばミオグロビンには4つのプロリンがあるが、それらはどれも曲がり角にある。
酸性アミノ酸
アスパラギン酸(Asp/D):アスパラギンの-CONH2が-COOHになる。
グルタミン酸(Glu/E):グルタミンの-CONH2が-COOHになる。味の素の主成分。
塩基性アミノ酸
( )(Lys/K):必須アミノ酸。-NH2が付く。ケトン体の原料になる。
アルギニン(Arg/R):成長期に不足しやすい。小児の必須アミノ酸。
( )(His/H):必須アミノ酸。トリプトファンと並んで複雑な形。
教科書37ページ
タンパク質の構造
(図2-17の説明)
アミノ酸がペプチド結合で連結したものをペプチドという。ペプチド結合とは2個のアミノ酸がある時、片方のアミノ酸のカルボキシ基-COOHと
片方のアミノ酸のアミノ基-NH2が反応して水H2Oがとれてできた結合-CONH-。アミノ酸2個からジペプチド、アミノ酸3個からトリペプチド、アミノ酸10個程度からオリゴペプチド、アミノ酸多数からポリペプチド、アミノ酸50個以上でタンパク質になる。 長くなるほど分子内で相互作用をして複雑な構造になる。
教科書38ページ
タンパク質の構造をヘモグロビンを例にして見ていこう。
(図2-18の説明)
( ):アミノ酸の種類と配列順序のこと。遺伝子(DNA)が配列順序を決める。
教科書39ページ
(図2-19の説明)
( ):ペプチド結合どうしの水素結合-N-H…O=C-によって生じるらせん(αヘリックス)やジグザグ(βシート)の部分的な立体構造のこと。
(図2-18の説明)
( ):側鎖どうしのS-S結合や疎水基どうしの疎水結合により二次結合が折りたたまれてできる全体的な立体構造のこと。特にプロリンだけは水素結合に必要な-N-Hが欠落してαらせんが形成されないので、その部分でポリペプチド鎖が折れ曲がりやすい。
( ):ポリペプチド(サブユニット)が複数結合して生じた構造のこと。(余談)単に集まっただけではなくて微妙な効果をもたらす。たとえばヘモグロビンはα鎖2本とβ鎖2本から成っていてそれぞれに1分子ずつヘムが結合しており、このヘムの鉄原子と酸素が結合する。1つのヘムと酸素が結合すると他のグロビンの立体構造が変化して2つめのヘムはより酸素と結合しやすくなる。2つめのヘムと酸素が結合すると3つめはさらに酸素と結合しやすくなる。だからこそ多くの酸素を運んで組織で一気に酸素を供給できる。(一方、筋肉内のミオグロビンも酸素と結びつく働きをしているが一つのサブユニットだけなので三次構造までしか持っていないということになる。)
タンパク質の性質
一般にタンパク質は60℃以上の高温では立体構造が壊れてしまう(ゆで卵がよい例)。これをタンパク質の変性という。
教科書40ページ
タンパク質の種類
(表2-4の説明)
@
酵素タンパク質:アミラーゼ、ペプシン、リパーゼ
A
輸送タンパク質:脂質を運ぶアルブミンやリポタンパク質、鉄を運ぶトランスフェリン、銅を運ぶセルロプラスミン、O2やCO2を運ぶヘモグロビン
B
貯蔵タンパク質:肝臓中の鉄と結合するフェリチン、筋肉中の酸素と結合するミオグロビン
C
収縮性タンパク質:筋肉のアクチン、ミオシン、細胞分裂のときのチューブリン
D
構造タンパク質:皮膚や軟骨のコラーゲン、靱帯のエラスチン。皮膚や爪のケラチン、DNAと結合するヒストン、絹糸の中のフィブロイン
E
防御タンパク質:抗体(免疫グロブリン)、抗ウイルス作用のインターフェロン、血液凝固因子のフィブリノゲン、トロンビン
F
調節タンパク質:ペプチドホルモン(インスリン、グルカゴン)
教科書88ページ
タンパク質とアミノ酸の代謝
教科書89ページ
タンパク質・アミノ酸の役割と概要
タンパク質が糖や脂質と大きく異なる点は窒素Nを含んでいること。
(図4,3-1の説明)
吸収されたアミノ酸はタンパク質やそれ以外の物質に利用される。
@
核酸塩基(プリン、ピリミジン)の材料。(100ページの図4,4-2)
チロシンのベンゼン環に-OHが付いて-COOHがはずれてドパミン、ノルエピネフリン、エピネフリンになる。(135ページの図7-3)
グリシンとスクシニルCoA、鉄からヘムが合成される。(96ページの図4,3-7)
A脱アミノ(-NH2が外れる)されたアミノ基はアンモニアから尿素に変わり尿に排泄。
B脱アミノされた炭素骨格がエネルギー合成や糖質、脂質合成の材料に。
CDNAのプログラムに沿って特定のタンパク質合成の材料に。
タンパク質の消化と吸収
教科書90ページ
(図4,3-2の説明)
かみ砕かれた食物が胃に入ると胃体部のG細胞からホルモンのガストリンが血液中に分泌される。ガストリンは胃底腺の壁細胞から塩酸を分泌させて胃内のpHが2となりタンパク質は変性して消化されやすくなる。胃底腺の主細胞から不活性型の前駆体ペプシノーゲンが分泌され、塩酸の働きで活性型のペプシンになる。ペプシンの最適pHは2である。
☆国家試験問題:正常な胃液のpHはどれか。
1pH1~2、2pH4~5、3pH7~8、4pH10~11
(強酸性の1を選ぶ。)
☆国家試験問題:胃底腺の主細胞の分泌物に由来するタンパク質分解酵素はどれか。
1アミラーゼ、2キモトリプシン、3トリプシン、4ペプシン、5リパーゼ
(答え一発4。他は膵臓から分泌される酵素)
次に十二指腸においては膵液中のアルカリ性の炭酸水素ナトリウムNaHCO3により中和される。膵液の消化酵素(トリプシン、キモトリプシン)の最適pHは8である。トリプシン、キモトリプシンもはじめは不活性型の前駆体のトリプシノーゲン、キモトリプシノーゲンとして分泌されてから活性型に変えられる。
最終的に小腸粘膜のペプチダーゼによってアミノ酸に分解されて毛細血管に吸収される。グルコースと同様に上腸間膜静脈から門脈を通って肝臓に至る。
(ここで質問1)タンパク質分解酵素はなぜ不活性型の前駆体で分泌されるのか?
(答え)タンパク質消化酵素は自分の細胞、組織を消化する恐れがあるため、不活性型の前駆体(実際に働く宇一歩手前の状態)としてつくられ貯蔵されている。自分で自分を消化しないよう安全装置を備えていると考えられる。細胞から分泌されたあと、分泌後酸や塩基の作用を受けて活性型に変化する。急性膵炎では膵臓の中で消化酵素が活性化されて発症する。細胞が破壊され、漏れ出た酵素が周囲の細胞を破壊し、さらにその酵素を活性化するために病巣が広がる。治療は絶食と酵素阻害剤の注射である。
(質問2)糖尿病の治療に使うインスリンは注射で投与しないと効果がない。なぜインスリンの飲み薬はないのか?
(答え)インスリンは51個のアミノ酸から成るペプチドホルモンである。口から投与すると一つ一つのアミノ酸に消化されてしまう。
アミノ酸の代謝
教科書91ページ
(図4,3-3の説明)
(1)アミノ酸からアミノ基がはずされて2-オキソ酸(COOHから数えて2番目の炭素にオキソ酸=Oが付くもの)=α-ケト酸(ケトン基C=Oがα炭素にあるもの)になる。アミノ基転移反応という。この反応はアミノトランスフェラーゼ=トランスアミナーゼにより行なわれる。(ビタミンB6がアミノ基を運ぶ補酵素。)
R
R
H-C-NH2 → C=O +-NH2
COOH COOH
アミノトランスフェラーゼの代表的なもの
ASTアスパラギン酸アミノ基転移酵素(= GOTグルタミン酸オキサロ酢酸トランスフェラーゼ)心臓、肝臓など広く分布
ALTアラニンアミノ基転移酵素( =GPTグルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)おもに肝臓に分布
(2)このアミノ基を2-オキソグルタル酸(α-ケトグルタル酸)が受け取ってグルタミン酸になる。つまりアミノ基はすべていったんグルタミン酸として集められる。
COOH
COOH
CH2
CH2
CH2
CH2
C=O +-NH2→ H-C-NH2
COOH
COOH
(3)このグルタミン酸にグルタミン酸脱水素酵素が働いてアンモニアNH3が生じる。酸化的脱アミノ反応という。
COOH COOH
CH2
CH2
CH2
CH2
H-C-NH2 C=O
+ NH3
COOH
COOH
(4)NH3は肝臓の尿素回路に入って尿素に変えられ尿中に排泄される。
教科書92ページ
(図4,3-4の説明)
アンモニアはまずミトコンドリアに入りカルバモイルリン酸になる。
NH3+CO2+ATP→H2N-COO-PO32-
カルバモイルリン酸+オルニチン→シトルリン
シトルリンは細胞質に出てアスパラギン酸と一緒になって→アルギニノコハク酸となり
アルギニノコハク酸は→アルギニンとフマル酸に分かれる。
アルギニンは尿素CO(NH2)2を放出して→オルニチンに戻りミトコンドリアに入る。
尿素は腎臓から尿中に排泄される。
尿素回路の各段階のどの酵素が欠損しても高アンモニア血症を起こす。(133ページ表7-1)
肝臓の機能が低下(肝硬変や肝癌末期)するとアンモニアの処理ができないので高アンモニア血症となる。アンモニアは中枢神経毒性があり意識低下(完成昏睡)、けいれんなどが起こる。
腎臓の機能が低下すると排泄できないので血液中の尿素(尿素窒素BUN)が上昇する。
教科書93ページ
(図4,3-5の説明)
アミノ酸からアミノ基が外れた炭素骨格はピルビン酸、アセチルCoA、アセト酢酸、2-オキソグルタル酸、スクシニルCoA、フマル酸、オキサロ酢酸のいずれかに行き着く。これらの物質はクエン酸回路に入りATP合成に使用される。
それらの構造式を描いてみましたが眺めるだけでいいです。覚える必要はありません。
1、アラニン、セリン、グリシン、システィン、トリプトファンはピルビン酸に分解
アラニン→ピルビン酸
COOH COOH
CH-NH2 C=O
CH3 CH3
システィン → ピルビン酸
COOH
COOH
CH-NH2
C=O
CH2-SH
CH3
グリシン→セリン→ピルビン酸
COOH COOH COOH
CH2-NH2 CH-NH2 C =O
CH2OH CH3
トリプトファン→ → →ピルビン酸+アセト酢酸
COOH
COOH COOH
CH-NH2
C=O
CH2
CH2
CH3
C=O
C8H6N
CH3
2、アスパラギンとアスパラギン酸はオキサロ酢酸に分解
アスパラギン→アスパラギン酸→オキサロ酢酸
COOH COOH
COOH
CH-NH2 CH-NH2 C=O
CH2
CH2 CH2
CO NH2 COOH COOH
3、グルタミン酸、グルタミン、アルギニン、プロリン、ヒスチジンは2-オキソグルタル酸に分解
グルタミン→グルタミン酸→2-オキソグルタル酸
COOH COOH
COOH
CH-NH2 CH-NH2 C=O
CH2
CH2
CH2
CH2
CH2 CH2
CONH2 COOH COOH
アルギニン→オルニチン→→グルタミン酸→2-オキソグルタル酸
COOH COOH COOH COOH
CH-NH2 CH-NH2 CH-NH2 C=O
CH2 CH2 CH2 CH2
CH2 CH2 CH2 CH2
CH2 CH2 COOH COOH
NH NH2
HN-C=NH2 +尿素
プロリン→→→グルタミン酸→オキソグルタル酸
COOH
COOH COOH
CH-NH-CH2 CH-NH2 C=O
CH2-CH2 CH2 CH2
CH2 CH2
COOH COOH
ヒスチジン→→→→グルタミン酸→2-オキソグルタル酸
COOH
COOH COOH
CH-NH2
CH-NH2 C=O
CH2
CH2 CH2
C3H3N2
CH2
CH2
COOH COOH
4、トレオニン、メチオニン、バリン、イソロイシンはスクシニルCoAに分解
トレオニン→→スクシニルCoA
COOH
S-CoA
CH-NH2 C=O
CH-OH CH2
CH3 CH2
COOH
メチオニン→SAM→→→→→→スクシニルCoA
COOH
S-CoA
CH-NH2
C=O
CH2
CH2
CH2
CH2
S-CH3
COOH
バリン →→→→→スクシニルCoA
COOH S-CoA
CH-NH2
C=O
CH-CH3
CH2
CH3
CH2
COOH
イソロイシン→→→→→アセチルCoA+スクシニルCoA
COOH
CH3
S-CoA
CH-NH2
C=O
C=O
CH-CH3
S-CoA
CH2
CH2
CH2
CH3
COOH
5、ロイシン、リシンはアセチルCoA+アセト酢酸に分解
ロイシン→→→→→→→アセチルCoA+アセト酢酸
COOH CH3
COOH
CH-NH2 C=O
CH2
CH2
S-CoA
C=O
CH-CH3 CH3
CH3
リシン→→→→(複雑→→→)→アセチルCoA+アセト酢酸
COOH
CH3
COOH
CH-NH2
C=O
CH2
CH2
S-CoA
C=O
CH2
CH3
CH2
CH2
NH2
6、トリプトファンはピルビン酸+アセト酢酸に分解
トリプトファン→ → →ピルビン酸+アセト酢酸
COOH
COOH COOH
CH-NH2
C=O
CH2
CH2
CH3
C=O
C8H6N
CH3
7、フェニルアラニンとチロシンはアセト酢酸とフマル酸に分解
フェニルアラニン→チロシン→アセト酢酸、フマル酸
COOH
COOH COOH COOH
CH-NH2
CH-NH2 CH2 CH
CH2
CH2 C=O CH
C6H5
C6H4OH CH3 COOH
教科書94ページ
(表4,3-1の説明)
アミノ基を失った後クエン酸回路に入って糖新生でグルコースになるものは糖原性アミノ酸、アセチルCoAを経てケトン体や脂肪酸の材料になるものはケト原性アミノ酸と言われる。このようにアミノ酸やタンパク質もエネルギー源として利用される。
アミノ酸のその他の使われ方
アミノ酸からいろいろなものがつくられる。
(図4,3-6の説明)
(1)核酸塩基の合成
プリン塩基の材料(次回の核酸代謝で)
ピリミジン塩基の材料(次回の核酸代謝で)100ページ図4,4-2
(2)ポルフィリン→ヘムの材料(後ほど)96ページ図4,3-7
(3)生理活性アミン
アミノ酸は脱炭酸酵素により分解されてアミンと二酸化炭素になる。
ヒスチジンから-COOHがとれてヒスタミン(皮膚のかゆみや鼻づまりを起こす)になる。
COOH
CHNH2
CH2 NH2
CH2
CH2
C3H3N2
C3H3N2
チロシンから-COOHがとれてドパミン→アドレナリンになる。ドパミンが欠乏するとパーキンソン病になる。前かがみ姿勢、手指の振戦、小刻み歩行といった症状が現れる。
COOH
CH-NH2 CH2-NH2 CH2-NH2-CH3
CH2
CH2
CHOH
C6H4OH C6H3(OH)2 C6H3(OH)2
C6H3(OH)2の部分をカテコールというのでこれにアミノ基が付いたのをカテコールアミンという。
トリプトファンから-COOHがとれてセロトニン(腸と脳の神経伝達物質)になる。
COOH
CH-NH2
CH2-NH2
CH2
CH2
C8H6N
C8H6N
グルタミン酸は脳内で興奮性に働くが、から-COOHがとれて
GABAに変換されると抑制性に働く。
COOH
CH-NH2
CH2-NH2
CH2
CH2
CH2
CH2
COOH
COOH
よく使われる入眠剤はGABA受容体作動薬が多い。
(4)ホルモン、補酵素の原料
チロシンにヨウ素が結合したものがチロキシン(甲状腺ホルモン)、メラニン(皮膚色素)もチロシンからつくられる。
トリプトファン→ニコチン酸(48ページ図2-28)→NAD(補酵素)
COOH
CH-NH2
CH2
C8H6N
教科書95ページ
アミノ酸代謝と先天性代謝異常
フェニルケトン尿症(135ページの図7-3):
フェニルアラニンはフェニルアラニン水酸化酵素によりチロシンになる
COOH COOH
HCNH2 HCNH2
CH2
CH2
C6H5 C6H4OH
が、この酵素が欠損するとフェニルアラニンが蓄積してフェニルピルビン酸(フェニルケトン)、フェニル酢酸、フェニル乳酸を生じる。
COOH
COOH
C=O COOH H-C-OH
CH2
CH2
CH2
C6H5 C6H5
C6H5
放置するとチロシンからのメラニンが合成されないため肌が白く、甲状腺ホルモンやカテコールアミンの不足による知能障害が起こる。新生児マススクリーニングで早期発見して低フェニルアラニン食(雪印メグミルクのフェニルアラニン除去ミルク)で育てるとほとんど正常に育つ。
(133ページの表7,1のアミノ酸代謝異常の説明)
メープルシロップ尿症(楓糖尿症):分枝アミノ酸(ロイシン、イソロイシン、バリン)が脱アミノした後のα―ケト酸脱水素酵素の欠損によりロイシン、イソロイシン、バリン、α―ケト酸が蓄積する。α―ケト酸が汗、尿に出てメープルシロップの臭いがする。精神遅滞を起こすので分枝アミノ酸抜きの人工乳(国内では雪印メグミルクのみ製造)で育てる。
ホモシスチン尿症:メチオニンからスクシニルCoAに至る途中のホモシスティンがシスティンに変換されず、血中メチオニン、ホモシスチンが上昇して精神遅滞、高身長を起こす。治療はメチオニン除去ミルク(雪印メグ、明治乳業)で育てる。
先天性白皮症:チロシナーゼ欠損でチロシンが分解されてメラニンにならないので皮膚、髪の毛が白くなる。
高アンモニア血症T(92ページ図4,3-4):尿素回路の入り口でアンモニアがカルバモイルリン酸にならないので血中アンモニアが上昇する。
教科書95ページ
ヘムの生合成とビリルビンの代謝
ヘモグロビンは赤血球中に含まれる酸素を運ぶ。構造は38ページの図2-18。
☆国家試験問題:末梢血液中の「 」が低下した状態を貧血という。「 」に入るのはどれか。
1血漿量、2血小板数、3アルブミン濃度、4ヘモグロビン濃度
(答え一発4。)
☆国家試験問題:貧血を診断する際の指標となる血液検査項目はどれか。
1アルブミン、2ヘモグロビン、3フィブリノゲン、4プロトロンビン時間
(答え一発2。1はタンパク質、3、4は血液凝固の検査。)
☆国家試験問題:貧血の診断に用いられるのはどれか。
1血糖値、2尿酸値、3C反応性蛋白値、4ヘモグロビン濃度
(答え一発4。3は炎症の程度を表す。)
☆国家試験問題:貧血の定義で正しいのはどれか。
1血圧が下がること、2脈拍を自覚すること、3立ち上がると失神すること
4血色素量が減っていること
(ここまで勉強してきたら答えは4しかない。一般の人は1,2,3を間違って貧血と呼んでいるが。)
教科書96ページ
(図4,3-7の説明)ヘモグロビンの合成
グリシン+スクシニルCoA
COOH COOH
CH2NH2 CH2
CH2
C=O
SCoA
→4分子縮合してポルフィリンがつくられる
→ポルフィリンの中央に2価の鉄が加わってヘムになる
→骨髄で合成されたヘムはグロビンが加わってヘモグロビンになる。
肝臓で合成されたヘムは薬物代謝酵素のシトクロムP450に利用される。
☆国家試験問題:糖尿病の血糖コントロールの指標となる検査値はどれか。
1総ビリルビン、2総コレステロール、3グリコヘモグロビン、4クレアチニンクリアランス(答え一発3。)
教科書97ページ
(図4,3-8の説明)
赤血球の寿命は120日。脾臓の大食細胞や肝臓のクッパー細胞で破壊される。ヘムの鉄は造血に再利用され、残りのポルフィリン部分は黄緑色の非抱合型ビリルビンになる。非抱合型ビリルビン(間接ビリルビン)は細胞傷害性があり水に溶けにくいのでアルブミンに結合し、肝細胞に取り込まれて滑面小胞体にあるグルクロニルトランスフェラーゼによってグルクロン酸と結合してオレンジ色の抱合型ビリルビン(直接ビリルビン)になる。
炭素番号 グルコース グルクロン酸
1
CHO
CHO
2 HCOH HCOH
3 HOCH HOCH
4
HCOH HCOH
5 HCOH HCOH
6
CH2OH COOH
抱合型ビリルビンは水に溶け、一部は血中に入るが大部分は胆汁中に排泄されて脂質の消化に加わり一部は小腸で再吸収されて肝臓にもどり(腸肝循環)一部は尿中(ウロビリノーゲン)便中(ステルコビリン)に排泄される。尿や便の色はこのビリルビンによる。
血液中のビリルビンが高くなって皮膚や白眼の部分が黄色くなることを黄疸という。
次の場合に高ビリルビン血症となる。
@赤血球の破壊が亢進して間接ビリルビンが増えている時
A肝臓の機能が下がってグルクロン酸抱合ができなくて間接ビリルビンが増えている時
A
結石やがんで胆管が閉塞して直接ビリルビンが排泄されなくて直接ビリルビンが増えている時
C新生児で胎児型のヘモグロビンFが破壊されたりビリルビン代謝が未熟な時。生後3〜5日目をピークにして自然に治まる。
☆国家試験問題:血中濃度が上昇すると黄疸となるのはどれか。
1グルコース、2ビリルビン、3クレアチニン、4総コレステロール
(答え一発2。)
☆国家試験問題:黄疸で黄染を確認しやすい部位はどれか。
1歯、2毛髪、3爪床、4眼球結膜
(「白い巨塔」で財前五郎は鏡に映る自分の眼球結膜の黄染で自分の病気を悟った。答え4。)
☆国家試験問題:生後3日。Aちゃんは母乳をよく飲み、体重3050g、体温測定37.2℃、呼吸数34/分、心拍数136/分である。昨日は排尿6回、排便4回であった。Aちゃんの母親はAちゃんの顔の黄染を心配している。Aちゃんの血液検査データは血清総ビリルビン13mg/dLである。Aちゃんの母親への説明で適切なのはどれか。
1生理的な黄疸です、2早発性の黄疸です、3光線療法を受けると思います、4頭のこぶで黄疸が強くなります
(総ビリルビン(正常値0.2~1.2mg/dL)は上昇しているが、全身状態は安定している。答えは1。新生児黄疸について詳しくは小児看護学などで学びます。)