生化学講義第四回

脂質

教科書28ページ

バターやラードが手につくとぬるぬるして水で洗ってもなかなか取れません。あのぬめぬめ感は石鹸や洗剤をつけるときれいにとれますね。石鹼は親水基と疎水基の両方を持っていて疎水基が脂肪を取り囲んで外に向いた親水基が水になじんで脂肪が手から離れるのでしたね。

このようにC, H, Oから成る水に溶けない(疎水性の)有機物をまとめて脂質という。常温で固体のものを脂(あぶら)fat、液体のものを油(あぶら)oilという。水に溶けないので血液中ではタンパク質と結合して水になじみやすい形(リポタンパク質)になっている。炭素数10以下の中鎖脂肪酸はまだ水になじむので単独の遊離脂肪酸の形のものもある。脂肪組織や細胞膜の構成成分、エネルギー源、ホルモンや生理活性物質としての役割がある。

教科書29ページ

(図2-9の説明)

代表的な脂質の構造はアルコールと脂肪酸が脱水結合(水が抜けてエステル結合)したものである。他の栄養素(糖質は単糖類のポリマー、タンパク質はアミノ酸のポリマー、核酸はヌクレオチドのポリマー)と違ってポリマーでない。

黄色い四角がアルコール部分。そこに脂肪酸が結合して脂質になる。

(1)単純脂質

中性脂肪

グリセロール+ 脂肪酸 →中性脂肪+    水

H2C-OH   + HOOC-R1   H2C-O-CO-R1

HC-OH    + HOOC-R2 HC-O-CO-R2  +3H2O

H2C-OH   + HOOC-R3   H2C-O-CO-R3

3価アルコールのグリセロールと3つの高級(炭素原子の多い)脂肪酸がエステル結合すると脂肪酸の酸性が消えて中性になるので中性脂肪という。

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教科書30ページ

長鎖の(    )脂肪酸は常温では固体(脂)である。固体が液体になる温度(融点)が高い。

長鎖の(       )脂肪酸は常温で液体(油)である。融点が低い。

(表2-1の説明)

飽和脂肪酸:炭素が水素で飽和されて二重結合のないもの

短鎖脂肪酸は臭気あり。長鎖脂肪酸は無色無臭。

長鎖飽和脂肪酸は常温では固体(脂)である。

酪酸C3H7COOH(融点−7℃)(バターの腐敗臭)

吉草酸C4H9COOH(人工果実エッセンス)

カプロン酸C5H11COOH(融点−3℃)(ヤギの臭い)

カプリル酸C7H13COOH(融点16℃)(ココナツオイル)

カプリン酸C9H19COOH(融点31℃)(ココナツオイル)

ラウリン酸C11H23COOH(融点44℃)(ヤシ油、界面活性剤の原料)

ミリスチン酸C13H27COOH(融点53℃)(パーム油)

パルミチン酸C15H31COOH(融点63℃)(牛脂、豚脂)

マルガリン酸C16H33COOH(融点61℃)(マーガリン)

ステアリン酸C17H35COOH(融点69℃)(木蝋)

(表2-2の説明)

不飽和脂肪酸:炭素原子どうしの結合のうちに二重結合を含むもの。

長鎖不飽和脂肪酸は常温で液体(油)である。

パルミトオレイン酸CH14= C8H15COOH(融点−0.5℃)オリーブ油

オレイン酸C9H18= C8H15COOH(融点12℃)オリーブ油

リノール酸CH12= C3H4= C10H18COOH(融点−5℃)植物油、必須脂肪酸

リノレン酸C3H6=C3H4=C3H4 =C8H15COOH(融点−11℃)必須脂肪酸

アラキドン酸C6H12=C3H4=C3H4=C3H4=C4H7COOH(融点−49℃)必須脂肪酸

エイコサペンタエン酸(EPA) C3H6=C3H4=C3H4=C3H4= C3H4=C4H7COOH(融点−54℃)魚油に多い。

ドコサヘキサエン酸(DHA)C3H6=C3H4=C3H4=C3H4= C3H4==C3H4=C3H4C3H5COOH(融点−44℃)魚油に多い。

植物は不飽和脂肪酸を合成できるが、動物は体内で飽和脂肪酸しか合成できない。外からの栄養として取り入れなければいけないので不飽和脂肪酸は必須脂肪酸と言われる。昔はビタミンFとも言われた。

(余談)シスとは「同じ側の、こちら側に」という意味で、脂肪酸の場合には水素原子が炭素の二重結合をはさんで同じ側についていることを表す。トランスとは「横切って、かなたに」という意味で、脂肪酸の場合では水素原子が炭素間の二重結合をはさんでそれぞれ反対側についていることを表す。

☆国家試験問題:魚油に多く含まれる脂肪酸はどれか。

1カプリル酸

2オレイン酸

3ミリスチン酸

4ドコサヘキサエン酸

(1と3は飽和脂肪酸。2は不飽和脂肪酸でオリーブ油に多いω9脂肪酸。4がDHAと略される青魚に多いω3脂肪酸。)

☆参考問題:次の生物のうち、細胞膜の不飽和脂肪酸の割合が最も高いと思われるのはどれか。

1南極海の魚

2砂漠のヘビ

3人類

4ホッキョクグマ

100℃の温泉に住む好熱性細菌

(答えは1。南極海の魚は氷の海に生息し、しかも変温動物であるから、低温下でも膜の流動性を保つために不飽和脂肪酸の割合が高い。)

教科書31ページ

(図2-10の説明)

脂肪酸のCOOHの付いている次の炭素から順番にギリシャ文字をα、β、γと付けていく。生体内では脂肪酸の分解の時にβ位の炭素のところで結合を切っていくので脂肪酸の分解のことをβ酸化という。また二重結合の位置は最後から何番目にあるかで表す。ギリシャ文字の最後はオメガω。たとえばオレイン酸の二重結合は最後から数えて9番目にあるのでオレイン酸はω9またはn9脂肪酸と言われる。

中性脂肪(トリアシルグリセロール)

(図2-11の説明)

トリ(3)+アシル(炭化水素鎖)+グリセロール(三価アルコール)。

中性脂肪もしくはトリグリセリド(TG)ともいう。

H2C-OH   + HOOC-R1    H2C-O-CO-R1

HC-OH    + HOOC-R2   HC-O-CO-R2  +3H2O

H2C-OH   + HOOC-R3    H2C-O-CO-R3

アルコールの-OHと脂肪酸の-Hが取れて水分子となる。脱水縮合という。

脂肪の大部分はこの形で食品中、体内の脂肪細胞に貯蔵される。

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脂質代謝

教科書76ページ

脂質代謝の役割と概要

(図4,2-1の説明)

貯蔵される脂質の大部分が中性脂肪。中性脂肪はエネルギー貯蔵物質として重要。中性脂肪はグリセロールと脂肪酸に分解されて代謝される。

@    グリセロールは解糖系に入る。

A    脂肪酸はβ酸化(後で説明)によりアセチルCoAなった後、クエン酸回路に入ってATP合成に進むかコレステロールまたはケトン体(80ページで習います)の合成に進む。コレステロールはステロイドの原料。

脂質の消化・吸収と貯蔵

教科書77ページ

(図4,2-2の説明)

食物中の脂質の99%は中性脂肪=トリ(3)+アシル(炭化水素鎖)+グリセロール(三価アルコール)。脂質は水に溶けないのでそのままでは酵素の作用を受けにくい。コレステロールを原料に肝臓で合成されて十二指腸乳頭より分泌される胆汁酸には界面活性剤の役割があり、脂肪を乳化して小さな脂肪球にする。続いて膵液中のリパーゼにより脂肪酸2本とモノグリセリド1本に分解される。これらの物質は直径2nmのミセルとなって小腸粘膜上皮細胞の細胞膜から拡散によって細胞内に吸収される。長鎖脂肪酸とモノグリセリドは吸収上皮細胞の滑面小胞体に入り、そこでトリグリセリドに再合成される。トリグリセリドはゴルジ装置に運ばれ、そこで蛋白と結合してキロミクロンとなる。この大きなリポタンパク質は毛細リンパ管→中心乳び管→胸管→鎖骨下静脈→上大静脈→心臓→肝動脈から肝臓に入る。食後の血液は白濁しており、乳びと呼ばれる。食後30分から1時間で肝細胞に取り込まれて脂肪酸とグリセロールに分解されて乳びは消える。

一方、短鎖脂肪酸(長さが12炭素以下)はほかの栄養素(グルコースやアミノ酸など)と同様に毛細血管→門脈→肝臓に運ばれる。

☆国家試験問題:脂肪を乳化するのはどれか。

1胆汁酸塩

2トリプシン

3ビリルビン

4リパーゼ

(1が正解。脂肪は胆汁酸塩で「乳化」される。2のトリプシンはタンパク質分解酵素。3のビリルビンは胆汁酸と合わせて胆汁になる。4のリパーゼは脂肪を「消化」する。)

余分の脂質は脂肪組織に中性脂肪の形で貯蔵される。脂質は熱量が大きい(9kcal/g)ので貯蔵エネルギーとして適している。

☆国家試験問題:脂肪分解酵素はどれか。

1ペプシン

2リパーゼ

3マルターゼ

4ラクターゼ

(答え一発2。1はタンパク質分解酵素。3,4は糖質分解酵素。)

☆国家試験問題:膵リパーゼが分解するのはどれか。

1脂肪

2タンパク質

3炭水化物

4ビタミン

(答え一発1。)

☆国家試験問題:栄養素と消化酵素の組合せで正しいのはどれか。

1炭水化物―――――リパーゼ

2タンパク質―――――トリプシン

3脂肪―――――マルターゼ

4ビタミン―――――アミノペプチダーゼ

(答え一発2。)

☆国家試験問題:小腸で消化吸収される栄養素のうち、リンパ管から吸収されて胸管を通って輸送されるのはどれか。

1糖質

2タンパク質

3電解質

4中性脂肪

5水溶性ビタミン

(答え一発4。1,2,3,5は毛細血管から吸収されて門脈に入って肝臓へ。)

教科書78ページ

脂肪酸の分解

(図4,2-3の説明)

脂肪組織の脂肪の分解は脂肪組織中のホルモン感受性リパーゼにより行われる。インスリンにより阻害、グルカゴンにより促進される。絶食で血糖値が下がるとグルカゴンが分泌されてホルモン感受性リパーゼにより中性脂肪がグリセロールと脂肪酸に分解される。

グリセロールは解糖系に入る。

脂肪酸は次に説明するβ酸化を受けてアセチルCoAになる。ケトン体はアセチルCoAの血中運搬体。

 

(まとめ)リパーゼは3種類ある。

膵臓から分泌される消化酵素のリパーゼ:食物中の中性脂肪を消化する。

血管内皮中のリポタンパク質リパーゼ:キロミクロンに作用し、含まれる中性脂肪を分解する。

脂肪組織中のホルモン感受性リパーゼ:アドレナリンやグルカゴンの作用で活性化され脂肪細胞内の中性脂肪を分解する。

 

教科書79ページ

空腹で運動を始めると初めの約15分は主にグリコーゲンがエネルギー産生に使われるが、その後脂肪組織の燃焼が始まる。脳を除く多くの組織で安静空腹時にはエネルギーの必要量の半分以上(残りはグリコーゲン分解)が脂肪酸の代謝でまかなわれている。

(図4,2-4の説明)パルミチン酸を例にしてβ酸化を説明。

CH3CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 COOH

まず細胞質でCoAと結合して代謝されやすい形(脂肪酸CoA=アシルCoA)となる。

CH3CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CO-CoA

アシルCoAはミトコンドリアの外膜を通過できるが内膜を通過できないので、カルニチンという渡し舟の役割をするタンパクと結合してミトコンドリア内膜を通過する。

    CH3    H

H3C-N- CH2-C- CH2-COOH

    CH3    OH←ここにアシルCoAが付く

ミトコンドリアのマトリクスに入って再びアシルCoAに戻ってβ位で酸化されて(2Hが抜かれて)エノイルCoAになる。

 CH3CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 =CHCO-CoA

H2Oが入って3−ヒドロキシアシルCoAになる。

                OH

CH3CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CHCH2CO-CoA

→酸化されて(2Hが抜かれて)β―ケトアシルCoAになる。

CH3CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 COCH2CO-CoA

→アセチルCoAが抜かれて炭素が2つ少ないアシルCoAになる。

CH3CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CO-CoA

                                                CH3CO-CoA

このようにβ位で炭素2つずつはずれていく。はずれた2つの炭素はアセチルCoAとなってクエン酸回路に入ってATPが産生される。残りの炭素が2つ少なくなったアシルCoAは炭素が全部消費されるまでβ酸化が繰り返される。炭素数16のパルミチン酸だったら8回β酸化を受けることになる。

(余談)脂肪は好きなだけ食べても炭水化物の量を制限すれば体重を減らすことができるというダイエット法があるが、これは妥当であろうか。

→あまり勧められない。その理由は脂肪は炭水化物より1gあたりずっと多くの熱量を発生するし、そのうえ体内で脂肪はアセチルCoAを経て糖新生により炭水化物に変わるから。炭水化物ダイエットでは脂肪も減らすべき。(さらにバランス良く植物繊維やタンパク質もきちんととること。)

教科書80ページ

ケトン体の代謝

このように脂肪酸のβ酸化はエネルギー効率が良いが、良すぎてアセチルCoAがたまってしまう時がある。

(図4,2-5の説明)

特に糖尿病の時はグルコースの利用が進まないためクエン酸回路が回りにくくなってアセチルCoAが消費されずたまってくる。クエン酸回路に入れなったアセチルCoAは水に溶けないためアセチルCoAの血中運搬形のケトン体に変化して血液中に出る。2分子のアセチルCoAが結合してアセト酢酸CH3COCH2COOHになる。アセト酢酸の大部分は3-ヒドロキシ酪酸CH3CHOHCH2COOHに、一部はアセトンCH3COCH3に変換される。アセトンは揮発性で呼気中に出る。3-ヒドロキシ酪酸は厳密にはケトン基-CO-でなくなっているが慣用的にケトン体に含める。

☆国家試験問題:脂肪分解の過剰で血中に増加するのはどれか。

1尿素窒素

2ケトン体

3アルブミン

4アンモニア

(答え一発2。1,4はアミノ酸分解で生じる。3は菅で合成されるタンパク質)

☆国家試験問題:尿ケトン体が陽性になる疾患はどれか。

1肝硬変

2糖尿病

3尿路感染症

4ネフローゼ症候群

(答え一発2.グルコースが利用できないので脂肪酸の分解が進んでケトン体が増える。)

教科書81ページ

(図4,2-6の説明)

肝臓ではケトン体をアセチルCoAにもどす酵素がない。筋肉などではケトン体をアセチルCoAにもどしてエネルギー産生に利用される。(マラソン選手はケトン体を利用する能力が高いと言われる。)この処理能力を超えると全身にケトン体がたまってくる。ケトン体が増えて困るのはケトン体の酸性度が強いためケトアシドーシスを起こすことである。

脂肪酸と脂肪の合成

教科書82ページ

(図4,2-7の説明)

アセチルCoAカルボキシラーゼ(補酵素ビオチン)によりアセチルCoACH3-CO-SCoA)に-COOHが付いてマロニルCoAHOOC-CH2-CO-SCoA)になる。次に脂肪酸合成酵素により脂肪酸が合成されていく。

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Aロウwax

高級(分子量の多い)1価アルコール+高級脂肪酸→ロウ    +

                     R1-OH        +HOOC-R2R1-O-CO-R2+H2 O

代表的なものに蠟燭(ろうそく)の蝋(ろう)、ミツバチのつくる蜜蠟、マッコウクジラの頭部の空洞にある鯨蝋、軟膏の原料に使われるラノリンが成分の羊毛蝋、鳥の羽毛の撥水物質、植物表面の水をはじくつるつるした物質。

B    コレステロールエステル:食物中での形

コレステロールもアルコールの一種。

(2)複合脂質

単純脂質にリン酸や糖が結合したもの。

アルコールはグリセロールとスフィンゴシン

スフィンゴシンというアルコールは発見当初はその働きがわからなかったので謎という意味のギリシャ語スフィンクスを語源に名付けられた。

CH3(CH2)12-CH=CH-CHOH-CHNH2-CH2-OH

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@リン脂質:細胞膜、神経鞘の成分。

(図2-13の説明)

大きく分けてアルコール部分がグリセロールのグリセロリン脂質とアルコール部分がスフィンゴシンのスフィンゴリン脂質がある。

グリセロリン脂質:グリセロール+脂肪酸+リン酸をホスファチジン酸という。

ホスファチジン酸のリン酸の先にコリンがついたものをホスファチジルコリン(レシチン)と言う。脳、神経、肝臓、卵黄などに多く含まれている。生体で最も多いリン脂質である・

H2C-O-CO-R1

HC-O-CO-R2

H2C-O-PO32—コリン

他にホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミンも細胞膜のリン脂質。ホスファチジルイノシトールはシグナルを細胞表面から細胞内へ伝達する特別の役目を持つ。

(余談)卵黄にはホスファチジルコリン(レシチン)が豊富である。卵黄1個、食酢15ml、食塩1g、サラダ油150mlを混ぜて撹拌すると微小な油滴の周囲をレシチンが取り囲んで食酢中に分散した乳濁液=マヨネーズができる。

スフィンゴリン脂質:スフィンゴシン+脂肪酸+リン酸

スフィンゴシンのNH2部分に脂肪酸がついたものをセラミドという。さらにOH部分にリン酸+コリンが付いたものをスフィンゴミエリンという。脳、神経、赤血球に多い。ニーマン・ピック病(133ページ)は先天的なスフィンゴミエリナーゼの欠損でスフィンゴミエリンが肝臓や脾臓にたまって腫大する。神経症状(精神遅滞)も起きる。

教科書34ページ

糖脂質:神経鞘の成分。高等動物ではアルコール部分はほとんどスフィンゴシン。

(図2-14の説明)

スフィンゴシンのNH2部分に脂肪酸1本が付いたものをセラミド。セラミドのOHに糖が付いたものをスフィンゴ糖脂質という。

(ガラクト)セレブロシド(セレブロは脳の意味):セラミド+ガラクトース。神経組織に分布する場合が多い。クラッベ病はガラクトセレブロシドからガラクトースを切り離す酵素のガラクトセロブロシダーゼが先天的に欠損しており脳(特に後頭葉白質)の髄鞘が障害される。現在のところ治療法はない。

グルコセレブロシド:セラミド+グルコース。脳白質に多く含まれる。ゴーシェ病(133ページ)はグルコセレブロシドからグルコースを切り離す酵素のグルコセレブロシダーゼが先天的に欠損しており肝臓、脾臓、骨にグルコセレブロシドが蓄積する。治療法があって点滴で投与できる酵素製剤(セレザイム)がある。

ガングリオシド:セラミド+シアル酸を含む2から7個の少糖。脳神経の成分。ガングリオシドは乳幼児期における脳の発達に伴い急速に生合成され、その後ヘキソサミニダーゼによって分解される。テイ・サックス病(133ページ)はヘキソサミニダーゼが先天的に欠損しているため生後6か月までは正常に発育するが、その後神経線維のガングリオシドの合成が止まらないため増大して精神身体能力の低下が起こる。治療法はなかったが、最近遺伝子組み換えによるヘキソサミニダーゼの動物実験が成功して人への応用が期待されている。

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誘導脂質

脂質の分解で生じる。脂肪酸はすでに説明。脂溶性ビタミン(ビタミンA,D,E,K)も第二回講義で。コレステロールについてこれから説明。

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ステロイド類とコレステロール

(図2-12の説明)

六角形3つと五角形一つのステロイド骨格をもつ化合物をステロイドという。それぞれの炭素に番号が付いている。脂肪酸と比べるとずいぶん違う形に見えるが炭素と水素からできている疎水性の脂質である。

ステロイド骨格のC3-OHが付いてアルコールの形になった生体で最も多いステロイドがコレステロール。体内のコレステロールは30%が食物から、70%が肝臓でアセチルCoAから合成される。つまり原料が糖、脂質、アミノ酸いずれの場合もある。さらにコレステロールから次のものが合成される。

@胆汁酸(コール酸、デオキシコール酸)

A副腎皮質ホルモン(コルチゾール)

B性ホルモン(テストステロン、エストラジオール)

CビタミンD(7−デヒドロコレステロール、コレカルシフェロール)

血中コレステロールが高いと動脈硬化の原因となるが、コレステロールはこのように体内に不可欠な物質の原料なので低すぎてもいけない。

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コレステロールの代謝

食事由来のコレステロール(30%)よりも肝臓で合成されるコレステロール(70%)の方がずっと多い。

教科書83ページ

(図4,2-8の説明)

コレステロールは肝臓でアセチルCoAから作られる。

   3分子の

アセチルCoAHMG-CoA→メバロン酸→→→→→→→コレステロール

COOH       COOH

CH2          CH2

H3C-C-OH    H3C-C-OH

             CH2          CH2

             C=O          CH2OH

             S-CoA

HMG-CoAからHMG-CoA還元酵素によりメバロン酸を経て合成される。ここのHMG-CoA還元酵素を抑制すると血中コレステロールが低下する(ほとんどの高コレステロール血症の薬)。このように単に脂質のとりすぎだけでなく糖質も含めた高カロリー食でアセチルCoAが増えて血中コレステロールが増える。脂質異常症の食事療法では脂質制限だけでなく糖質制限も大切な理由である。合成されたコレステロールは蛋白と結合してVLDLLDLとして末梢組織に運ばれる。余分のコレステロールはHDLによって肝臓に送り返される。その後肝臓で分解されて胆汁酸に、末梢でステロイド化合物合成に利用される。

☆国家試験問題:肝細胞で合成されるのはどれか。2つ選べ。

1アルブミン、2ガストリン、3セクレチン、4γグロブリン、5コレステロール

(答え一発1と5。2は胃、3は小腸、4はリンパ球のB細胞から。)

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エイコサノイド

(図2-15の説明)

4個の二重結合をもつ不飽和脂肪酸のアラキドン酸(炭素数20=エイコサ)から酵素の働きでできるさまざまな生理活性物質をエイコサノイドという。いろいろな作用(生理活性)を持っている。

トロンボ(意味:血栓)キサン:血小板凝集(血栓を作る)、気管支収縮

プロスタ(意味:前立腺)グランジン:男性の前立腺分泌液に子宮を収縮させる作用があることから研究された、痛み物質、発熱物質

ロイコ(意味:白血球)トリエン:白血球を誘導して免疫活性化、気管支収縮

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リン脂質とエイコサノイド

教科書84ページ

(図4,2-9の説明)(表4,2-1の説明)

細胞膜のリン脂質にホスホリパーゼA2が作用してアラキドン酸(C19H31COOH)が切り離される。この反応は副腎皮質ホルモン(コルチコステロンなどの抗炎症薬)により阻害される。

アラキドン酸はシクロオキシゲナーゼによりプロスタグランジンE2(C19H31O3COOH)やプロスタサイクリン(C19H31O3COOH)やトロンボキサンA2(C19H31O3COOH)になる。シクロオキシゲナーゼはアスピリンやロキソニンなどの解熱鎮痛薬によって阻害される。発熱は脳でPGE2が産生されることにより起こるのでこれが阻害されると熱が下がる。

一方リポキシゲナーゼによりロイコトリエンになる。ロイコトリエンは白血球を誘導して炎症を強めて気管支を収縮させる。この反応を抑える薬が喘息治療に使われている。(モンテルカストはロイコトリエン拮抗薬。)

普通のホルモンは分泌細胞から離れたところに標的細胞があるが、プロスタグランジンは分泌された細胞の周辺で作用するので局所ホルモン(オータコイド)といわれる。

☆国家試験問題:抗血小板作用と抗炎症作用があるのはどれか。

1ヘパリン

2アルブミン

3アスピリン

4ワルファリン

(3アスピリンはシクロオキシゲナーゼを阻害する。ヘパリンとワルファリンは抗凝固剤だが、抗炎症作用はない。アルブミンは血清タンパク質。)

教科書85ページ

血中リポタンパク質

脂質が血液中を運搬される時は親水性を高めるためにリポタンパク質粒子を形成する。リポタンパク質は外側にリン脂質の親水性部分を向けているので水に溶け込むことができる。(短鎖脂肪酸はアルブミンに結合して運ばれる)

(表4,2-2の説明)

比重によってキロミクロン、超低密度リポタンパク質(VLDL)、中間密度リポタンパク((IDL)、低密度リポタンパク質(LDL)、高密度リポタンパク質(HDL)に分類される。(腸で吸収された脂肪を運ぶキロミクロンは先ほど出てきた。)

リポタンパク質のタンパク質部分をアポタンパク質という。

キロミクロン:アポタンパク質B,C,Eを持つ。食物に由来する中性脂肪を小腸からリンパ管、血液を介して肝臓に運ぶ。

VLDL:肝臓で作られた内因性の中性脂肪、コレステロールを末梢に運ぶ。始めに肝臓で合成された時にはアポ蛋白Bだけを持つ。血液中に出た後にHDLからアポタンパク質C,Eをもらう。

IDLVLDL中の中性脂肪がアポタンパク質Cに刺激された血管内皮細胞のリポ蛋白リパーゼにより分解されて中間密度リポタンパク質IDLに変わってアポタンパク質はB,Eだけになる。)

LDLIDLの中性脂肪がアポタンパク質Eを介して肝臓のリパーゼによりさらに分解されてコレステロールの割合が高くなってLDLに変わる。アポタンパク質はBだけになる。LDLは末梢細胞のLDL受容体から取り込まれて細胞膜や胆汁酸やステロイドホルモンの原料になる。多すぎると動脈硬化の原因になる。

HDL:アポ蛋白A,C,Eを持つ。アポタンパク質AHDLの主要なタンパク質で末梢の過剰なコレステロールを抜き取る酵素(LCAT)を活性化する作用がある。アポタンパク質Cはリポ蛋白リパーゼを活性化する作用がある。アポタンパク質Eはリポタンパク質の細胞表面受容体に対する認識因子として働く。LDL受容体に先回りしてLDLが細胞に取り込まれるのを抑える働きと末梢の過剰なコレステロールを抜き取る働きがある。運動や少量のアルコール摂取で増加する。

「善玉」や「悪玉」のようなあだながついているが、HDLに含まれているコレステロールもLDLに含まれているコレステロールも構造はまったく同じ。リポタンパク質の役割が正反対で、HDLはたくさんあったほうが健康にいいので善玉、LDLは少ない方がいいので悪玉と呼ばれている。

(余談)空腹時の総コレステロール= VLDLコレステロール+LDLコレステロール+HDLコレステロール

日常臨床の検査ではVLDLコレステロールやLDLコレステロールを直接測定することが正確にできないため、総コレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪を測定して

LDLコレステロール=総コレステロール−HDLコレステロール−VLDL

=総コレステロール−HDLコレステロール−中性脂肪/5

の計算式でLDLコレステロールを求める。(空腹時の血清の中性脂肪のほとんどがVLDLに存在し、そのコレステロールと中性脂肪の比が1:5であるからVLDLコレステロール=1/5中性脂肪。食後は血中の中性脂肪がキロミクロンとしても存在するので空腹時に採血することが大事。)

もっと簡便にnon-HDLコレステロール=総コレステロール−HDLコレステロールが用いられることもある。

教科書86ページ

脂質異常症

健康診断で指摘される異常で一番多い。以前は血液中の悪玉(LDL)コレステロール値か中性脂肪が高い状態を高脂血症と呼んだが、今は善玉(HDL)コレステロール値が低い状態も含めて脂質異常症と呼んでいる。

動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診断基準では

LDL140mg/dL以上

HDL40mg/dL未満

TG150mg/dL以上

non-HDL(総コレステロールからLDLを引いたもの)170mg/dL以上

を脂質異常症という。

☆国家試験問題:低値によって脂質異常症と診断される検査項目はどれか。

1トリグリセリド

2総コレステロール

3低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C

4高比重リポ蛋白コレステロール(HDL-C

(答え一発4を選ぶ。)

脂質異常症があると、血管の壁に余分な脂質が沈着し、プラークと呼ばれる塊ができて硬くなる。この動脈硬化が進行すると血管の内側が狭くなってつまりやすくなり脳梗塞や心筋梗塞を引き起こす。

(表4,2-3の説明)

T型:リポタンパク質リパーゼは肝臓以外の脂肪組織や筋肉などの毛細血管内皮細胞表面に存在し、中性脂肪を分解する。アポタンパク質CUはリポタンパク質リパーゼを活性化するのに必要。

Ua型:LDL受容体はアポタンパク質Bの受容体で血液中のLDLを結合して細胞内に取り込む細胞表面の受容体。

V型:アポタンパク質Eはリポタンパク質の細胞表面受容体に対する認識因子として働く。

他は原因不明か糖尿病や肝機能低下からの続発性。

脂質異常症の治療は生活習慣の改善が基本。バランス良い食事を一日三食、一回を腹八分目、薄味にして食物繊維の多い野菜から食べることが大事。早食いや菓子、マーガリンなどのトランス脂肪酸を避ける。運動すれば中性脂肪は低下し、HDLコレステロールは上昇する。ウォーキングなどの有酸素運動を15分以上続けると脂肪が燃える。薬物治療はHMG-CoA還元酵素阻害剤によるコレステロール合成の低下やフィブラート系による中性脂肪の低下。

教科書87ページ

脂肪細胞と生活習慣病

脂肪組織から分泌されるアディポ(脂肪)サイトカイン(生理活性物質)。

血中濃度は一般的なホルモンに比べてけた違いに多く㎍/mL。(ペプチドホルモンはng/mL、ステロイドホルモンはpg/mL

善玉と悪玉がある。

善玉のアディポネクチンは脂肪酸の燃焼、細胞内の脂肪酸を減少させてインスリン感受性を亢進、動脈硬化抑制。内臓脂肪量が少ないほど多くなる。

逆に遊離脂肪酸やTNF-αは悪玉で内臓脂肪が多いほど分泌が増してインスリン作用を妨害して高血糖を起こす。

コロナウィルス感染症で肥満が重症化リスクの一つである理由。ウイルス感染により脂肪組織から大量のサイトカインが放出されてサイトカインストームが起きやすくなる。

☆国家試験問題:生活習慣病の一次予防はどれか。(他の科目で習いますが一次予防は健康増進や病気にならないための予防、二次予防は早期発見、早期治療、病気が悪くならないための予防、三次予防は病気治療後の後遺症治療や再発予防のこと。)

1早期治療

2検診の受診

3適切な食生活

4社会復帰を目指したリハビリテーション

(1、2は二次予防。3〇。4は三次予防。)

(特)肥満症

「肥満」とは摂取エネルギーが消費エネルギーを上回ることにより脂肪組織に中性脂肪が過剰に蓄積した状態である。BMI(体重kg÷身長m÷身長m22が標準体重で最も病気になりにくいと言われる。18.5未満を低体重、25以上を肥満と定義する。BMI25以上でも皮下脂肪型(ぽっちゃり型)は寒さに強いなど健康な場合が多いが内臓脂肪型(ずんぐり型)は代謝異常、動脈硬化などよくないことが多い。

☆国家試験問題:身長160cm、体重64kgである成人のBMIを求めよ。ただし、小数点以下の数値が得られた場合には、小数点以下第1位を四捨五入すること。

64÷1.6÷1.625、答え25

「肥満症」とは肥満に関連する健康障害が生じて医学的な見地から減量が必要な肥満を指す。特に脂肪の蓄積部位が内臓脂肪の場合、合併症が生じやすい。糖尿病、脂質異常症、高血圧症、高尿酸血症、冠動脈疾患、脳梗塞は内臓脂肪の過剰蓄積がその病態に関与する。睡眠時無呼吸症候群、運動器疾患は脂肪細胞の量に関連する。

脂肪組織から分泌されるアディポサイトカインや遊離脂肪酸などの生理活性物質により合併症が誘導される。

治療の目的は減量による健康障害の改善ならびに進展予防にある。1か月に1〰2kg程度、3〰6か月の治療。

食事療法:25kcal×標準体重/日の摂取エネルギーの指導を行う。野菜を先に食べる。早食いをしない。よく噛んで食べる。夕食は遅い時刻に食べない。糖質、脂質、タンパク質、ビタミンをバランス良く摂取することが大事なことは生化学の学習でよくわかる。

運動療法:特に内臓脂肪型肥満の改善に有用。速歩、ジョギング、自転車、水泳などの有酸素運動を130分、週3日を目安に実施する。エレベーターでなく階段を使う。歩数計の装着、運動しやすい服装。

行動療法:体重、食事、運動を自主的に記録。過食の要因となるストレス管理。身の回りのお菓子やグルメ番組の撤去。減量の実現への医療者や周囲からの賞賛や励まし。