生化学講義第一回
生化学を学ぶために知っておきたい化学の基礎知識
教科書138ページ
@ 生化学でよくみられる元素と元素間の結合の仕方
元素は概念、原子は実態。
まず原子の構造の説明:中心に原子核(陽子と中性子)まわりに電子が回っている。(図1)原子量は原子核(陽子+中性子)の重さで表す。電子の質量は陽子や中性子の1840分の1と軽いので原子量(原子全体の質量)の計算では殆ど考えなくてよい。
電子の周期は内側からK殻(電子2個入れる)L殻(8個)M殻(18個)N殻(32個)がある。(図2)
原子どうしが手をつないでいる( )結合と
陽イオンと陰イオンが引き付けあっている( )結合
生化学でよく登場する共有結合する元素(表の説明)
共有結合は容易に電子を与えたり失ったりしない原子の間に形成される。結合電子が共有されている。
@ 原子番号1の水素hydrogen( )
原子量1(陽子1個、中性子0個)
K殻に1個の電子を持っているので、つなぐ手が1本あると考える。
A 原子番号6の炭素carbon( )
原子量12(陽子6個、中性子6個)
K殻に2個、L殻に4個の電子をもっているので、つなぐ手が4本あると考える。つなぐ手が4本もあるから炭素同士はさまざまな結びつき方をすることができ、数多くの有機化合物になることができる。炭素は有機化合物の骨格となっているので、炭素の連なりのことを炭素骨格と呼ぶ。
B 原子番号7の窒素nitrogen( )
原子量14(陽子7個、中性子7個)
K殻に2個、L殻に5個の電子を持っていてL殻の5個のうち2個は電子対を作り、残り3個の不対電子(単独の電子)が他の元素とつなぐ手3本あると考える。
C 原子番号8の酸素oxygen( )
原子量16(陽子8個、中性子8個)
K殻に2個、L殻に6個の電子を持っていてL殻の6個のうち4個は2つずつ電子対を作り、残り2個の不対電子が他の元素とつなぐ手2本あると考える。
D 原子番号15のリンphosphorus( )
原子量31(陽子15個、中性子16個)
K殻に2個、L殻に8個、M殻に5個の電子を持っていてつなぐ手5本と考える。
E 原子番号16の硫黄sulfur( )または( )
原子量32(陽子16個、中性子16個)
K殻に2個、L殻に8個、M殻に6個の電子を持っていてM殻の6個のうち6個とも不対電子になる場合はつなぐ手6本でSO42-のような硫酸イオンになる。
M殻の6個のうち4個が2つずつ電子対を作って残り2個の不対電子が他の元素とつなぐ場合は-S-S-のようにつながる。
☆確認問題:それぞれ何を意味する元素記号か。
1, P ( )
2, O ( )
3, C ( )
4, S ( )
5, H ( )
6, N ( )
共有結合の例(図の説明)
@水素分子H2またはH―H
2個の水素原子どうしが1本の手で握手。
A二酸化炭素分子CO2またはO=C=O
炭素原子4本の手と2個の酸素原子の2本ずつの手が握手している。
B窒素分子N2またはN三N
2個の窒素原子の3本ずつの手が握手している。
生化学で多く登場するイオン結合する元素(表の説明)
イオン結合は容易に電子を失ったり与えたりする原子の間に生じる。たとえば塩化ナトリウムNaClでは電子1個がナトリウム原子から塩素原子に完全に移動して、両者を結び付けているのは正と負の間に働く静電気力である。(図3)
@
ナトリウムイオン( )
原子番号11、原子量23
K殻に2個、L殻に8個、M殻に1個の電子を持っていて、M殻の1個の電子が引かれて1価の陽イオンNa+になると安定した形になる。
A
マグネシウムイオン( )
原子番号12、原子量24
K殻に2個、L殻に8個、M殻に2個の電子を持っていてM殻の2個の電子が引かれて2価の陽イオンMg2+になると安定した形になる。
B
塩素イオン( )
原子番号17、原子量35
K殻に2個、L殻に8個、M殻に7個の電子を持っていてM殻に1個の電子が足されて1価の陰イオンCl-になると安定した形になる。
C
カリウムイオン( )
原子番号19、原子量39
K殻に2個、L殻に8個、M殻に8個の次はN殻に1個の電子が入る、このN殻の1個の電子が抜けて1価の陽イオンK+になると安定した形になる。
D カルシウムイオン( )
原子番号20、原子量40
K殻に2個、L殻に8個、M殻に8個の次はN殻に2個の電子が入る。このN殻の2個の電子が抜けて2価の陽イオンCa2+になると安定した形になる。
E 鉄イオン( )( )
原子番号26、原子量56
K殻に2個、L殻に8個、M殻に14個の次はN殻に2個の電子が入る。N殻の電子を2個失ってFe2+になる場合とさらに内側のM殻からも1個失ってFe3+になる場合がある。
F 銅イオン( )
原子番号29、原子量64
K殻に2個、L殻に8個、M殻に18個の次はN殻に1個の電子が入る。M殻の電子を2個失ってCu2+になる。N殻の1個は励起された状態になる。(ここの説明はやや専門的になってむずかしいので銅は2価の陽イオンになるということだけ知っていればよいと思います。)
陽イオン(アニオン)と陰イオン(カチオン)は電気的に引き合ってイオン結合を作りやすい。Na+とCl-で塩化ナトリウム、Ca2+とCO32-で炭酸カルシウム、K-とCl-で塩化カリウム。
教科書139ページ
A 分子量、モル、モル濃度
@ 水H2Oの分子量:Hの原子量の1×2+Oの原子量の16×1=( )
ブドウ糖C6H12O6の分子量は12 ×6+1×12+16×6=( )
A 分子量にgを付けたものが1モル(ひと塊とかひと山とかいう意味のラテン語)に相当する。1モルは6×1023個の分子。1モルの水は18g、1モルのブドウ糖は180g。
B モル濃度mol/L(モルパーリットルと読む)=M(モラー)
計算例:ブドウ糖(分子量180)18gを水に溶かして1リットルにした時0.1モル/L=0.1M
B イオンで存在する物質の濃度表示
当量Eq(エクイバレント)、1Eq=1000mEq(ミリエクイバレント、略してメック)
イオンの効果(たとえば中和するのに必要な量)を表す時に用いられる単位。
Na+, K+, Cl-,, HCO3-(重炭酸イオン)1モルは1価イオンなので1Eq。
Ca2+, Mg2+, HPO42-(リン酸イオン)1モルは2価イオンなので2Eq。
C 浸透圧
浸透とは薄い方から濃い方に水が移動する現象である。この水の流入を防ぐのに要する圧力を浸透圧という。溶液が濃いほど浸透圧が高い。つまり浸透圧は液体の濃さを表している、
水やイオンなど細かい粒子は通過できるがタンパク質などの大きい粒子は通過できないような膜を半透膜という。腹膜や血管壁や細胞膜などの生体内の膜は半透膜としての性質を持っている。人工血液透析の膜も人工の半透膜である。
濃度が違う2つの水溶液が半透膜で仕切られていた場合、お互いの濃度差が少なくなるように濃度が低い方から高い方へ水が移動することを浸透という。その強さのことを浸透圧という。
( )%のNaCl溶液(生理食塩水)や( )%ブドウ糖液は人体の血液の浸透圧と等しい「等張液」なので血液の浸透圧に影響せず血管内に安全に注射できる。
肝臓の働きが低下して低( )血症になると血液の膠質浸透圧が下がるので血管から周囲に水分が出ていき浮腫(水ぶくれ)が起こる。
☆国家試験問題:生理食塩水の塩化ナトリウム濃度はどれか。
1、0.9%
2.5%
3、9%
4、15%
(答え一発1。)
☆国家試験問題:血漿と等張のブドウ糖溶液の濃度はどれか。
1、5%
2、10%
3、20%
4、50%
(答え一発1。)
☆国家試験問題:静脈内注射を行う際に、必ず希釈して用いる注射液はどれか。
1、5%ブドウ糖
2、15%塩化カリウム
3、0.9%塩化ナトリウム
4、7%炭酸水素ナトリウム
(答え一発2。1,3、4は等張液でそのまま投与できる。4は酸性に傾いた血液を中和するもので8.4%のものも用いられている。2のカリウムは必ず希釈してゆっくり注入しなければならない。)
(余談)正常な状態ではカリウムは細胞内に多く細胞外には少ない状態である。血漿中のカリウム濃度は3.5〜5.0mEq/Lであり細胞内はその30倍高い。問題の15%塩化カリウムだと150g/Lは150÷(KClの分子量の40+35.5)は大体2000mEq/Lだから正常の100倍以上の濃度ということになる。そのような高濃度のカリウムを万が一にも薄めずに注射したら細胞外のカリウムが増加して細胞内との差が小さくなり、たとえば心臓の洞房結節の興奮の伝導を遅らせて心臓の収縮が悪くなり停止させてしまうこともある。(アメリカでは薬物による死刑執行時に使用する薬物である。)カリウムは生体に必要な電解質ではあるが投与方法によっては生命の危機を及ぼす作用があるため必ず薄めてゆっくりと投与する。
☆国家試験問題:血液中の濃度の変化が膠質浸透圧に影響を与えるのはどれか。
1血小板
2赤血球
3アルブミン
4グルコース
5ナトリウムイオン
(答え一発3。膠質はコロイドという意味でタンパク質を選ぶ。)
教科書140ページ
D 生化学でよく使われる濃度の表し方
分子の数:mol
mol/L=M、たとえば分子量180のブドウ糖18gは0.1モルだから水に溶かして1リットルにすると0.1mol/Lまたは0.1Mになる。
重さWeight
小中高までの濃度は重さ/重さ(W/W)だったが、医療での濃度は重さ/容積(W/Volume)で表すことが多い。
(水の場合100g=100mLだからほぼ同じことを言っているわけだが。)
0.9%のNaCl溶液(生理食塩水)はNaCl 0.9g/100mLの水。
5%のブドウ糖溶液はブドウ糖5g/100mLの水。
☆国家試験問題:「フロセミド注15mgを静脈内注射」の指示を受けた。注射薬のラベルに「20mg/2ml」と表示されていた。注射量を求めよ。ただし、小数点以下第2位を四捨五入すること。
(解答)20:2=15:x⇔20x=2×15⇔x=1.5で1.5ml
(20mg が2mlに入っているのだから15mgは1.5mlと暗算でも求められる。)
☆国家試験問題:5%のクロルヘキシジングルコン酸塩液を用いて0.2%希釈液2000mlをつくるのに必要な薬液量を求めよ。
(解答)濃度=溶質の重さ/溶液の容積だから溶質の重さ=濃度×溶液の容積
希釈の前後で溶質の重さは変わらないので5x=0.2×2000、x=80、答え80ml
イオン量
アシドーシス(体が酸性に傾いている状態)の治療薬「メイロン84」は炭酸水素ナトリウムNaHCO384gを1リットルの水溶液にした製品である。NaHCO3の分子量は23+1+12+16×3=84である。つまりNaHCO384g=1mol/L=1Eq/L=1000mEq/1000mL=1mEq/mLになっている。塩基を1mEq補いたければ1mL注射すればよいわけである。(何mEq補えばよいかは血液ガス分析という検査から分かる)
E 化学変化
水素が燃えると
2H2+O2→2H2O(水)
炭素が燃えると
不完全燃焼C+O→CO(一酸化炭素)
完全燃焼C+O2→CO2(二酸化炭素)
二酸化炭素が水に溶けると
CO2+ H2O→H2CO3(炭酸水)→H++HCO3-
同じように
NO(一酸化窒素)NO2(二酸化窒素)HNO3(硝酸)→H++ NO3-
SO(一酸化硫黄)SO2(二酸化硫黄)H2SO4(硫酸)→H++ SO42-
HCl(塩酸)→H++Cl-
F酸acidと塩基base、塩salt
酸とは水溶液中でH+を生じる物質→H+を与える物質
塩基とは水溶液中でOH-を生じる物質→H+を受け取る物質
塩とは酸と塩基が中和して水になる(H++OH- →H2O)時にできる物質。
中和反応:酸+塩基→塩+水
HCl(塩酸水溶液)+NaOH(水酸化ナトリウム水溶液)→NaCl(塩化ナトリウム)+H2O
(余談)
強酸:ほとんど完全に分離している酸
塩酸HCl→H++Cl- (電離度94%)
硫酸H2SO4→2H++SO42- (電離度62%)
強塩基:ほとんど完全に分離している塩基
水酸化ナトリウムNaOH→Na++OH- (電離度91%)
弱酸:一部しか電離していない酸
酢酸CH3COOH→H++CH3COO- (電離度1.6%)
炭酸H2CO3→2H++HCO3- (電離度0.17%)
弱塩基:一部しか電離していない塩基
水酸化アンモニウム NH4OH→NH4++OH- (電離度1.3%)
強酸+強塩基→生じる塩は中性
HCl+NaOH→NaCl+H2O
強酸+弱塩基→生じる塩は酸性
HCl+NH3→NH4Cl
弱酸+強塩基→生じる塩は塩基性
CH3COOH+NaOH→CH3COONa+H2O
H2CO3+NaOH→NaHCO3(炭酸水素ナトリウム)+H2O
炭酸水素ナトリウム(商品名メイロン)はアシドーシスの治療に使われる。
膵臓からの消化液にも炭酸水素ナトリウムが含まれている。胃液には塩酸HClが含まれ胃内消化物はいったん酸性になるが、その後十二指腸で膵液中の炭酸水素ナトリウムにより中和される。
教科書141ページ
G pH(ピーエイチまたはペーハー、水素イオン指数)
[ ]は中に示す物質のモル濃度を示す。
[H+](=水素イオン濃度)の対数に−を掛けたもの
H2O⇔H++OH-において[H+][OH-]=10-14で一定
中性では[H+]=[OH-]=10-7(mol/L)でpH=( )
酸性では[H+]が多くなるのでpHは7より小さくなる。
塩基性では[H+]が少なくなるのでpHは7より大きくなる。
人体のpHは( )±0.05(弱塩基性)に保たれている。
酸性に傾くと( )という。
塩基性に傾くと( )という。
(余談)身の回りの溶液のpH
アンモニア水12、海水8、血液7.4、牛乳7、唾液6.6、トマトジュース4.4、酢3、胃液1.5
H酸化反応と還元反応
酸化(される) ⇔還元(される)
=燃焼:酸素と結びつくこと⇔酸素を失うこと
(生体内では燃えるわけにいかないので)
水素原子を失うこと ⇔水素原子を得ること
電子を失うこと ⇔電子を得ること
C3H4O3(ピルビン酸)+2H→C3H6O3(乳酸)
ピルビン酸1分子に水素2原子が加わって乳酸になったとき「ピルビン酸は還元された」という。
C3H6O3(乳酸)→C3H4O3(ピルビン酸)+2H
乳酸1分子から水素原子2個がとれてピルビン酸になったとき「乳酸は酸化された」という。
I有機化合物(炭素化合物)
◎人体の化学組成で水H2Oは生体内に最も多量(新生児80%、乳児70%、幼児〜成人60%、老年50〜60%)に存在する成分。物質が水に溶けやすいか溶けにくいかは重要な性質。
☆国家試験問題:高齢者の体重に占める水分量の割合に最も近いのはどれか。
1,45%
2,55%
3,65%
4,75%
(2が正解。)
◎水以外の人体の構成成分はほとんど炭素を中心とした有機化合物。有機(ゆうき)とは生物、生きているということ。有機化合物は生体を構成する化合物ということ。化学的には炭素骨格を含む化合物。
タンパク質(C,H,O,N,S)
脂質(C,H,O,P)水に溶けにくい
糖質(C,H,O)
核酸(C,H,O,N,P)
◎その他、無機質PとCa(骨や歯の成分)、NaとCl(浸透圧やpHの調節)、Fe(血液中のO2運搬に関与するヘモグロビンの成分)など。
地球上で生まれた生物には地球上のすべての元素が含まれているはずだが、ごく微量または測定方法がないため下記の周期表の元素以外はわかっていない。
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 |
1 H |
2 C N O F |
3 Na Mg Si P S Cl |
4 K Ca Cr Mn Fe Co Ni Cu Zn Se |
5 Mo I |
6 |
7 |
17族はいずれも外側の殻が7電子なので、電子1個をとりいれて1価の陰イオンになりやすい。多くの金属元素とイオン結合により「塩をつくりやすい」。そのことをギリシャ語で「ハロゲン」という。
教科書142ページ
J生化学でよく登場する用語
炭化水素(有機化合物の基本骨格)
すべての炭素原子どうしが単結合している炭化水素を飽和炭化水素または( )という。
大昔の太陽エネルギーがいっぱい詰まった化石燃料の成分。燃焼によりエネルギー(熱、光)が発生する。
メタンCH4 (沸点−161℃)都市ガスに利用される。
エタンC2H6(沸点−89℃)都市ガス
プロパンC3H8(沸点−42℃)プロパンガス。圧力を加えて液体にしてボンベで運べる
ブタンC4H10(沸点−0.5℃)カセットコンロ。小さい圧力で小さい缶に入れられる。
イソブタンC4H10(沸点−1.2℃)カセットコンロ(寒冷地用)
芳香族化合物
1825年鯨油から発見されてC6H6と確認されたが、構造がなかなか解明されなかった・
1865年ドイツのケクレがベンゼン環を提案した。(夢の中でヘビが自分のしっぽをかんで回りだしたという。)
環状構造の中にC以外にNやOを含むものを( )という。教科書41ページのような核酸中の塩基のプリン環(六角形1つと五角形1つ)やピリミジン環(六角形1つ)がある
飽和化合物
炭化水素の一つのHがCOOHになったものを脂肪酸という。炭化水素の部分が単結合のみから成るものを( )という。常温で固体のことが多い。たとえば牛脂(ラード)中のパルミチン酸。その化学式は教科書のようにCH3(CH2)14COOHでもCH3 CH2 CH2 CH2CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2CH2
CH2 CH2 CH2COOHでもC16H32O2でもよい。
不飽和化合物
二重結合が入ると融点が下がるので常温で液体のことが多い。たとえばオリーブ油中のオレイン酸。化学式は教科書のようにCH3(CH2)7CH=CH(CH2)7COOHでもCH3CH2 CH2 CH2 CH2CH2 CH2 CH2 CH= CH2 CH2 CH2 CH2CH2 CH2 CH2 COOHでもC18H33O2でもよい。COOHの反対側から数えて9番目に二重結合があるのでω(オメガ)9脂肪酸またはn-9脂肪酸という。
疎水性(水をはじく=水に溶けにくい性質)
電子を引き付ける力のことを電気陰性度といい、F>O>N=Cl>C>Hの順である。炭化水素のようにCとHからなる分子では共有結合している電子は均等に分布しており、電荷の片寄りは見られない。このような状態を無極性という。したがって極性の大きな水にはほとんど溶けず、代わりに無極性もしくは極性の小さな有機溶媒にはよく溶ける。
親水性(水になじむ=水に溶けやすい)
水酸基-OHやカルボキシ基-COOH、アミノ基-NH2のような分子では共有結合の電子は電子を引き付ける力の強いOやN原子の方へ少し引きつけられる。このように共有結合に電荷の片寄りがある状態を極性があるという。水分子が水素結合によって水和しやすい。
界面活性剤(せっけんで油汚れが洗える理由)
親水基と疎水基をバランス良く持っていて、親水性物質と疎水性物質をうまく混ぜ合わせる。
合成洗剤の一つドデシル硫酸ナトリウムは疎水基と親水基の両方を持ち、台所用洗剤、はみがき、シャンプーとして用いられる。
C12H25OH(ドデカノール)というアルコールとH2SO4(硫酸)を混ぜると
→C12H25-OSO3H+H2O
そこにNaOH(水酸化ナトリウム)を加えると
→C12H25-OSO3Na(ドデシル硫酸ナトリウム)+ H2O
C12H25の部分が疎水性、OSO3の部分が親水性。C12H25の部分が油汚れを取り囲んでOSO3の部分が外を向いて分離する。(図3)
人体中では胆汁酸に界面活性作用があって脂肪の消化に役立っている。
(余談)親水性と疎水性のわかりやすい例
ワックス(油)をかけたばかりの車の表面は疎水性なので水滴は玉になる。
きれいにした(油分をせっけんで取り除いた)フロントガラスの表面は親水性なので水は広がる。
K知っておきたい官能基Functional group
基本の炭化水素の水素の部分をいろいろな原子の集団(官能基)に置き換えると、それぞれの官能基に特養的な性質が与えられる。
(余談)「官能」を辞書で調べると「動物の器官の働き」という意味です。器官の中で特に感覚器の働きを起こさせるような性質を「官能的」と言います。特に性的なものを刺激するという意味になって性的な小説は「官能小説」と呼ばれますが、化学での「官能」基は元の意味の「働き=function」の意味ですので勘違いした人は注意してください。
アセチル基CH3CO-(アシル基CmHnCO-)
アシル基の中でCH3 CO-を特にアセチル基という。
アセチルCoA(CH3CO-CoA)⊂アシルCoA(CmHn-CO-CoA)(=アセチルCoAはアシルCoAの中の一つである。)
アルキル基CmHn-
有機化合物の骨格をつくる炭化水素基の一種。CとHの電気陰性度(電子を引き付ける力)の差はあまり大きくないのでC-H結合の極性は小さい。したがって極性の大きな水にはほとんど溶けないので疎水性(水をはじく性質)を持つ。
メチル基CH3−、エチル基CH3CH2−、プロピル基CH3CH2CH2−-
ドデシル(意味:12)基CH3CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2−
アミノ基R-NH2
(Rはresidue(残基:残りの基)の略で化学構造において官能基以外の残りの部分を指すときに用いられる。)
水溶液中では-NH2+H2O→-NH3++OH-で塩基性-を示す。
アミノ基を持つ化合物を( )という。
神経伝達物質でアミノ基を持つアドレナリンやドパミンをカテコールアミンという。
カルボキシ基R-COOH
水溶液中では-COO−+H-となり酸性を示す。カルボキシ基を持つ化合物を( )という。
低級(炭素数が少ない)カルボン酸は人には不快に感じられる臭いがする。
蟻酸HCOOH:アリや蜂の毒。昆虫に刺されたとき、傷口に希(薄い)アンモニア水を塗るのは蟻酸を中和するため。
酢酸CH3COOH:食酢の成分。刺激臭。
プロピオン酸C2H5COOH:プロト(最初の)+ピオン(脂肪酸)。1価カルボン酸の中で水に溶けないものは油脂の構成成分であることから、とくに脂肪酸と呼ばれる。不快臭。
酪酸C3H7COOH(バターの腐敗臭)(汗の臭い)
吉草酸C4H9COOH(カノコソウの腐敗臭)(足の裏の臭い)
カプロン酸C5H11COOH(融点−3℃)(ヤギの臭い)
高級(炭素数が多い)脂肪酸では臭わなくなる。
ラウリン酸C11H23COOH(ヤシ油)
パルミチン酸C15H31COOH(油脂、ラード)
2価カルボン酸
シュウ酸(COOH)2(カタバミ、ホウレンソウの苦み)、尿管結石の成分で多い。
コハク酸HOOC(CH2)2COOH(クエン酸回路の中間生成物の一つ)
アルデヒド基R- (C=O)-H⊂カルボニル基 - (C=O)-
これを含むものを( )という。酸化されてカルボン酸-COOHになる。
アセトアルデヒドCH3CHO。酸化されて酢酸CH3COOHになる。
ホルムアルデヒド(ホルマリン)HCHO。酸化されて蟻酸HCOOHになる。
教科書143ページ
ケトン基R- (C=O)- R’⊂アシル基R- (C=O)-⊂カルボニル基
- (C=O)-
ケトン基は両側に炭化水素が結合していることが条件。R-(C=O)-R’
アセトンCH3-(C=O)-CH3(糖尿病の人の呼気中に出る)
アシル基は少なくとも1方が炭素であればよい。R-CO-
アシルCoA:R-(C=O)-S-CoA
アセチルCoA:CH3-(C=O)-S-CoA
アルデヒド基:R-(C=O)-H
カルボニル基は-C=O-のみを指し、両側が何でもよい。
カルボキシ基-(C=O)-OHはこれに含まれる。
カルボニル基とカルボキシ基両方を含む場合ケト酸という。
ピルビン酸:CH3(C=O)COOH
アセト酢酸:CH3(C=O)CH2COH
アルコール性水酸基R-OH
炭化水素の水素原子をヒドロキシ基-OHで置き換えた化合物を( )という。
( )のOH基は水酸化ナトリウムNaOHのOH基と異なり水に溶かしても電離しないのでアルコールの水溶液は中性である。
1価アルコール
メタノール(メチルアルコール)CH3OH:服用するとアルコール脱水素酵素で酸化されて生成するホルマリンHCHOが網膜の酵素を重合させて失明する。
エタノール(エチルアルコール)C2H5OH:飲料、消毒用に用いられる。コロナウィルス対策でも酒造会社が消毒用エタノールを生産してもよくなった。飲用すると大部分は小腸から吸収されるが空腹時は胃からも吸収される。肝臓のアルコール脱水素酵素でアセトアルデヒドに酸化され、さらにアルデヒド脱水素酵素で酢酸に酸化される。東洋人の40%はアルデヒド脱水素酵素の機能が低下しており、アセトアルデヒドによる悪酔い(悪心、嘔吐、動悸、頭痛など)が起こる。消毒作用は蛋白変性によるものでこのためには水の存在が必要なので77%に薄めたものが使われる。
2価アルコール
エチレングリコール:水に溶けやすく融点が低いので水冷式エンジンの不凍液に用いられる。
H2C-OH
H2C-OH
3価アルコール
グリセロール(グリセリン):甘味料、潤滑剤として用いられる。これ自身はアルコールだが脂肪酸と結合して中性脂肪となって脂質の構成成分として重要。
H2C-OH
HC-OH
H2C-OH
(付録)-OHと-COOHの両方をもつ化合物をヒドロキシ酸という。-OHは電離しないので全体としては-COOH→-COO-+H+により酸性になる。多くの果実に含まれる爽快な酸味成分で、人体では糖代謝の中間生成物でもある。
乳酸:ヨーグルト、漬物、疲労時の筋肉中
リンゴ酸:リンゴ、モモ、ブドウ、クエン酸回路中の物質
クエン酸:みかん、レモン、シトロンに含まれる。クエンは漢字で枸櫞と書いてシトロンの意味。シトロンはレモンの仲間。
クエン酸回路の最初の物質でもある。
乳酸 リンゴ酸 クエン酸
COOH COOH COOH
HO-CH HO-CH
CH2
CH3
CH2 HO-C-COOH
COOH CH2
COOH
スルフヒドリル基(チオール基)R-SH
アミノ酸のシスティンにある。二つつながってジスルフィド結合-S-S-になる。Sの手が2本の場合。
L生化学で重要な分子と分子の結合の仕方
エステル結合-COO-(第四回講義の脂質)
脂肪酸-COOH+アルコール-OH→-COO+ H2O
高級(分子量の多い)エステルは脂質。グリセロールと3つの高級(炭素原子の多い)脂肪酸がエステル結合すると脂肪酸の酸性が消えて中性になるのでできた油を中性脂肪という。
低級(分子量の少ない)エステルは揮発性で容易に空気中を拡散して鼻粘膜に達する。快適な臭いが多い。
酢酸ペンチルCH3COOC5H11:ナシの香り
酢酸オクチルCH3COOC8H17:オレンジの香り
酪酸エチルC3H7COOC2H5:パイナップルの香り
酪酸ペンチルCH3COOC5H11:あんずの香り
ペプチド結合(アミド結合)-CO-NH-(第五回講義のタンパク質、アミノ酸)
アミノ酸-COOH+隣のアミノ酸-NH2→-CO-NH-+H2O
グリコシド結合-O-(第三回講義の糖)
糖やアルコールの-OH+-OH→-O-+H2O
エタノールC2H5OH+ C2H5OH→C2H5-O-C2H5(ジエチルエーテル)+H2O
グルコースC6H12O6+グルコースC6H12O6→マルトースC12H10O11+H2O
ジスルフィド結合-S-S-(第五回講義のタンパク質、アミノ酸)
-SH+-SH→-S-S-。システィンどうしの結合。頭髪の10%のアミノ酸がシスティン。パーマをかけるときは-S-S-を一度切断してから再結合させる。
水素結合(第六回講義の核酸)
電気陰性度(電子を引き付ける力F>O>N=Cl>C>H)が大きいOやNが小さいH原子をはさんで生じる結合。…で表す。
-O-H…O-水分子どうしの引力。
-N-H…N-H-核酸塩基どうしの結合
-N-H…O=C-タンパク質の中の離れたところのアミド結合どうしの結合。
(付録)リン酸結合-O-PO32-(第六回講義の核酸)
核酸中の糖どうしの結合。高エネルギーリン酸結合。
ATP、GTP、筋肉中のクレアチンリン酸、グルコース6リン酸など。
単量体(モノマー)と重合体(ポリマー)
単量体(モノマー)が重合してできた高分子化合物を重合体(ポリマー)という。
グルコースのポリマーはデンプン、グリコーゲン
アミノ酸のポリマーはタンパク質
ヌクレオチドのポリマーは核酸(DNA,RNA)
(注:脂肪だけはポリマーでない)
教科書144ページ
M化合物の名前によく見られる用語
アセチル〰(CH3CO-)酢酸(アセテート)の一部という意味
メチル〰(CH3-)エチル〰(CH3CH2-)フェニル〰(C6H5-)
デヒドロ〰(脱水素)ヒドロ〰(水素〰)
ヒドロキシ〰(水酸基-OH)
オキシ〰(酸素〰)デオキシ〰(脱酸素)
アミノ(〰アミン)(アミノ基-NH2)
〰オール(アルコール)-OH
メタノール、エタノール、グリセロール、コレステロール、エストラジオール(女性ホルモン)
〰ノーゲン(〰のもと)ペプシノーゲン(胃の消化酵素ペプシンのもと)
〰ホスフェート(〰リン酸)=ホスホ〰(リン酸〰)
クレアチンホスフェート=ホスホクレアチン(筋肉や脳内のリン酸供与体)。
アデノシン三リン酸(ATP)
〰オース(糖)
アミロース(デンプン)、スクロース(ショ糖)、セルロース(食物繊維)、マルトース(麦芽糖)グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)、ガラクトース(乳糖)、
〰アーゼ(〰を分解する酵素)ドイツ語。〰エースは英語。アミラーゼ、(アミロースを分解する酵素)リパーゼ(脂質を分解する酵素)プロテアーゼ(蛋白を分解する酵素)ヌクレアーゼ(ヌクレオチドを分解する酵素)
N生化学でよく使われる単位
ギリシャ語 長さ 重さ 容積 情報量
109 |
テラ |
|
|
|
テラバイト |
106 |
ギガ |
|
トン |
|
ギガバイト |
103 |
キロ |
q |
kg |
kL |
キロバイト |
100(=1) |
|
m |
g |
L |
バイト(28) |
10-1 デシ dL
10-2 センチ cm
10-3 |
ミリ |
mm |
mg |
mL |
|
10-6 |
マイクロ |
μm |
μg |
μL |
|
10-9 |
ナノ |
nm |
ng |
nL |
|
10-10 Å(オングストローム)これのみスウェーデン語
10-12 |
ピコ |
|
pg |
pL |
|
10-15 フェムト fL
(付録)臨床検査の測定値の単位
赤血球数白血球数血小板数 個/μL、ヘモグロビンg/dL、赤血球1個の容積fL
血糖値、コレステロール値mg/dL,総蛋白g/dL
GOT,GPT,CPK(酵素)U/L、酵素活性はU(ユニット)という単位で表される。酵素の1Uとは1分間に1μモルの基質に作用する酵素量のことをいう。
サイロキシン、コルチゾール(ホルモン)ng/mL
遊離テストステロン、エストラジオール(ホルモン)pg/mL
数を表すギリシャ語
1/2へミ
1 モノ モノレール
2 ジ、ビス ジレンマ
3 トリ トリオ、トライアングル トライアスロン トリオース(三炭糖)
4 テトラ テトラポッド
5 ペンタ ペンタゴン(5角形) ペントース(五炭糖)
6 ヘキソ ヘキサゴン(6角形) ヘキソース(六炭糖)
7 ヘプタ へプタスロン(陸上7種競技)
8 オクタ オクトパス(タコ) オクターブ(8音階)
9 ノナ ノナン酸(炭素数9個の脂肪酸)食用油の不快な臭い成分
10デカ デカメロン(十日物語:ペスト流行時のイタリアの小説)
12ドデカ ドデカノール(炭素数12個のアルコール)
20エイコサ EPAエイコサペンタエン酸(炭素数20個のω3脂肪酸)
22ドコサ DHAドコサヘキサエン酸(炭素数22個のω3脂肪酸)
魚類に含まれる体に良い油
少 オリゴ
多 ポリ
生化学で使われるギリシャ文字
大文字 小文字
アルファ α
ベータ β
ガンマ γ
デルタ Δ δ
シータ θ
カッパー κ
ラムダ λ
ミュー μ
パイ π
ロー ρ
シグマ Σ σ
ファイ φ
カイ χ
サイ ψ
オメガ Ω ω