「カラオケ物語」
第9話後編「とっておきの夜」
仁木 友信=仁 立山 昇=立 平中奈津子=平
下市光二=下 堅野 慎=堅
いよいよ仁木が歌い始める!でも、周りの反応がどうもおかしい・・・どう言う事なんだ?
立「おっ!やっと最後の最後でステージに上がったか。」
下市の一声でみんながステージに顔を向ける、立山もその一人だった。
しかし前奏が流れ始めた時、急に立山の顔つきが変わった。
立「あれ・・・?この歌は・・・・」
何かを必死に思い出している、そしてある一つの答えに気がついた。
立「に・・仁木ぃ! な・・・何でこの歌を・・・?」
前奏もそろそろ終盤に差し掛かってきた・・・。
立「お前・・・・前にも言ってたはずだ・・・・適正がどうとか・・・」
今回仁木が選んだ歌は・・・・・。
立「・・・・・・・・・何でだよ・・・・・・・・・・・。」
ラルク
立「・・・・・・何でこれなんだよ・・・・・・・・。」
〜♪〜 泣かな〜いで〜
立「何でクリスマスソングなんだよ〜!!!!」
「I wish」
あなたは、この歌を知っているだろうか?
確かにラルクの中では、それほど有名な曲ではないかもしれない。シングル曲でもないし、
しかし・・・知ってる人は知っている、これは紛れ間なくクリスマスソングなのだ!!
〜♪〜 こんな夜なのに 一人きりひざを抱えて
待って〜いて〜 駆けつけてくから 午前0時の鐘が鳴る前に 〜♪〜
平「な・・なんで・・・よりによって・・・I wishなんて・・・・」
堅「選曲ミス・・・・なのかなぁ〜、良い歌ではあるけどぉ〜・・・・。」
下「ん?・・いや!・・ちょっと待てよ・・・」
下市は歌の先読みをしてみた。
すると!
下「あ・・・これは・・・そんな!・・・まさか!」
下市は外を見た、まだ雪が降っている。今日で最後の忘れ雪が・・・・。
〜♪〜 その窓を 開けて見てごらん 街はもう 奇跡にあふれて
懐かしい歌も聞こえるよ あの素敵な オルガンにのせて
信じてる気持ちさえ無くさないように
もう一度その瞳揺らせてくれたら・・・・ほら。 〜♪〜
仁木はどんどん歌っていく。
〜♪〜 君に 幾つもの 真っ白な 天使が舞い降りて
笑ったら とっておきの この夜を祝おう 〜♪〜
立「こ・・・これって・・・・・な・・何で?」
堅「あれぇ・・?これって本当にクリスマスソング?・・・みたいだけど・・・」
平「そのはずなのに・・・ど・どうして・・・どうして『今』なの!?」
まるできつねにつままれたような顔を見せる立山達。
驚くのも無理は無い。
ラルクのI wish・・・たとえファンで無くとも誰もが認めるクリスマスソングのはずなのに、
そのはずなのに・・・。その歌からはまさしく『今』のイメージが込められているのだ。
しかし・・・それは偶然ではない、それはすべて仁木の頭の中で思い描いた必然である。
この歌がクリスマスソングであることは、仁木も百も承知のはず。
でも、仁木は迷わなかった。イヤ、むしろそれだからこそ選んだのかも知れない。
春に歌うクリスマスソングと言う「意外性」・・・それは、いやがおうにも場に作用した。
仁木は、今日の天気予報を聞いたその瞬間にこの歌の事に気づいた、
それで家で曲を聴きなおして、予感は確信に変わった。
時間いっぱいになるまで練習し、後はタイミングをはかる、
雪が降る瞬間を最後の最後まで待ち、そして歌った。
曲初めからのざわめきはいつのまにか消え去っていた。
あんなに不思議がっていた人達も、今はただただ聞き入っている。
下「いや・・・驚くのはここからだ・・・。」
すでに歌の先読みをした下市がポツリとつぶやいた。
そして、曲は二番に突入する。
〜♪〜 たくさんの愛しさを分けてくれたから、
望むなら空だって泳いで見せるよ・・・・ほら 〜♪〜
胸に手を置いて一呼吸。
〜♪〜 君は 誰よりも 大切な 人だから
どんなに 歳月が 流れても 笑っていて欲しい
祈ってる 僕なんか どうなっても
君が いつまでも いつまでも 幸せでありますように 〜♪〜
歌は終わった。
後奏を止めようとする人は一人としていない・・・。
最後の「ハロー」も聞こえ、音は止まった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しばらくの沈黙
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・パチ・・
パチ・・・・・・パチ・・・パチ・・パチ・パチパチパチパチパチ
パチパチパチパチパチパチパチ・・・・・・・・・
ワ〜!!!!!!
惜しみない拍手。ものすごい声援。泣いている人。
立「あの時と一緒だ・・・・。」
そう・・・カラオケ大会の時に似てる・・・・・・・・・。
ちょっと周りを見てみると、関係の無い人たちも一緒になって拍手してる。
終わりを告げに来たここの管理人までも・・・・。皆、時の流れるのも忘れて、仁木を賛辞した。
やがて仁木はステージをおり、平中の元に向かった。
彼女は・・・・やはり泣いていた。それはステージの上から仁木も見ていたようだ。
少し小走り気味に彼女の元に駆け寄っていく。
仁「なっちゃん!」
少し離れたところで、仁木は彼女を呼ぶ。
涙で何も見えなくなっている彼女は、ぼんやりとした視界の中で声の主を探す。
平「と・・・・とも・・とも君・・・・・」
涙声で仁木を呼ぶ、
そして・・・・。
彼の元に駆け寄り抱きしめた。
イヤ、それはすがりつくようにも見えた。
平「ぅわ〜〜〜〜ん!」
仁木の胸に顔をうずめ、激しい泣き声をあげる。
平「こ・・・こんなの・・・ずるいよぉ・・・・。」
仁「・・・なっちゃん・・・・。」
やさしく髪をなでる。
気がつけば、仁木もポロポロと涙を流していた。
仁木が伝えたかったもう一つのメッセージ、それは、
「いさぎいい別れの言葉」だった。
向こうへ行っても・・・僕と別れた後も幸せになって欲しい。
考えてみれば、なんて図々しい自分勝手な言葉だろう。
しかし仁木のやさしい歌声は、そんな図々しさを忘れさせ、
彼女にその言葉を素直に受け入れさせてしまったのだ。
平「こんなの・・・こんなの聞いちゃったら・・・私何も言えないよぉ。」
仁「・・・なっちゃん・・・ごめん・・・。」
平「・・・・・・・ううん・・・・・。」
彼女は首を横に振った。
お互い別れを知りながら、互いにどうしても言い出せない。
はっきり言ってしまったら、悲しみに潰されそうになるのが怖かった。
でも、仁木は言った。強い想いを歌に乗せて。
そして別れをはっきりと言葉で確認出来た事で、前向きになれる。
彼女は彼の歌で救われたのだ。
平「うれしかったよ、私・・・・・・ありがとう。」
素直になれたからこそ言える感謝の言葉は、互いに分かり合えた証。
彼女はそっと瞳を閉じて上を向いた。
仁木は・・・・・それにこたえた。
わ〜!!
会場全体に大きな歓声が響き渡る。拍手も聞こえる。
「ヒューヒュー!」
中には二人を冷やかす者もいるが、その声には「祝福」のイメージがある。
今、この場にいる皆が彼を祝福している。
そして・・・それは起こった。
・・・・・・・・・・・!!!!!!!!!!!!!!・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・なんと!・・・・・・・・・・
周りのみんなまで、キスをはじめたのだ!
仁木の行動に触発されたのか、ほとんどの恋人同士がキスしてる・・・。
そして・・・。
あちらこちらで、こんな声が聞こえてきた。
「ずっと好きでした・・・。」
あちらこちらで「告白」が始まっている・・・!
男も女もみんな動いている。そしてうまくいったら抱きしめてキスをして・・・。
まさしく、収拾がつかない状態になってしまった
そのあまりの光景に、ここの管理人も他の客も呆然としていた。
誰も止めようとするものもなく、会場はどんどん騒がしくなっていく・・・・。
立「運命を変える・・・か・・・。」
騒がしい会場の中、ポツリと立山はつぶやいた。
下「そう言うことだな。」
立山の声が聞こえたのか、下市が話しかけてきた。
下「『運命を変えるほどの歌い手』・・あいつの歌でみんな変わっちまった・・・。」
すると・・・立山は、少し首を横に振って。
立「イヤ・・・・変わるんじゃない、変えようとしてるんだ。
仁木の歌がみんなに、運命を変える勇気を与えたんだよ。」
下「・・・・なるほどね・・・・・・・・・・・・で、お前はどうなんだ?」
立「俺は・・・もう慣れてしまったから・・・でも君は?」
下「俺は・・・冷静に歌を聞いてたから・・・。」
下市の場合「歌を先読み」したのが仇となった。先にネタを知ってしまった事で、
それほどのインパクトは受けなかったのである。
立「・・・でも・・・変われるものなら変わりたかったなぁ・・・。」
下「ああ・・・俺も・・・みんなみたいに馬鹿やりたかった・・・。」
しかし、そう考えてた矢先。
「立山君!」
「下市さん!」
二人は名前を呼ばれた方を向くと、赤い顔した女性が二人、よく見たら結構可愛い。
立(おおっとぉ・・・この状況はぁ・・・。)
「ず・・ずっと好きでした!!」
少しこわばった声、ありったけの勇気を振り絞って言ってる事が目に見えて分かる。
下「どうする?」
立「・・・・いっときますか。」
下「仁木に感謝だな。」
立「ああ、俺も久しぶりだし・・・。」
二人は女性に近づきボソッと何かをつぶやいた。そして・・・・。
堅「あぁ〜・・・・うらやましいなぁ・・・」
その場を見ていた堅野はポツリとつぶやいた。
堅「誰のところに行っても、全然うまく行かないよぉ・・・。」
堅野はすでに何人かに告白していた、しかし誰も相手にしてくれない。
堅「やっぱり、ダメみたいだなぁ・・・。」
そう思った矢先。
ドン!
堅「ウワァ〜・・・。」
堅野は誰かとぶつかった。
堅「イテテ・・・あ・・・大丈夫?」
ぶつかった女性はうずくまっている。堅野は彼女の手を引いた。
その瞬間!
引っ張った反動で、女性はおもいっきり堅野に顔を近づける!
堅「え・・・?」
一瞬目が合ったと思うと、彼女はニコリと笑って
「・・・キスしよ。」
そのまま、顔を近づけてきた。
堅「・・・・ん・・んん・・」
なかば強引なキスではあったが、堅野はあまりの事に真っ白になっていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
唇を離した瞬間、堅野は力無く座り込んでしまった。
彼女はすぐに歩き出して行くと。また別の人にぶつかっていた。
堅「ハハハハ・・・誰でもいいのね・・・。」
仁「ふぅ・・・。」
今、会場の真ん中での長い長いキスがやっと終わった。
仁「・・・長かったね。どれくらいしてたんだろう?」
平「でも・・・ずっとこうしてたかったな・・・。」
お互いに笑顔を見せ合う。
平「あれ?・・・でもなんか騒がしいね。」
二人は今やっと、お互い以外のものを見た。
そこに広がっているのは、たくさんの「キスシーン」と「告白の現場」
仁「え・・ええええ!!な・・・なんて事・・・。」
平「す・・・凄い、いつの間にこんな事に・・・。」
彼女は少しの間考えて・・・・。
平「『change of destiny』だね・・・・。」
仁「え?」
平「『運命の変化』って事。ここにいる人みんな、もちろん私も、
みんな運命を変えられてしまった・・・あなたのせいでね。」
仁木はさらによく周りを見てみた。
女の子とキスをしてる下市と立山、座り込んでる堅野。
いつもより積極的になってる人達・・・。
平「やっぱり・・・とも君は凄いよ!!」
そして・・・・・・・・・・。
昼間の駅のホームは人でいっぱいだった・・・・・・・・・。
仁「これで、もうお別れだね。」
平「・・・・うん。」
立「俺は多分戻ってくると思うけど。」
仁「向こうでも元気でね。」
平「・・・・うん。」
立「お前もな。」
立「東京・・・来る時があったらいつでも連絡しろよ。
お前には色々と聞いてもらいたいものもあるし・・・・。」
平「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
仁「・・・・・・・なっちゃん。」
平「・・・・・・・・・・とも君」
何かを察知し、立山は列車の奥のほうに入っていった。
仁「・・・・・・・元気でね。」
平「さっきも言った。」
仁「あ?・・・ああ・・・そうだったね。」
「もうすぐ発車」のアナウンスが聞こえてきた。
仁「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
平「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
仁「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っと。」
平「何?」
仁「いや・・・その、向こうに言っても・・・」
平「元気でね?」
仁「あ・・・ご・・ごめん・・・。」
平「クスクスクス・・・・。」
仁「な・・・何?」
平「とも君らしいと思って・・・。」
仁「そ・・・そうかな・・。」
平「・・・・・・・元気でね。」
仁「え?・・・あ・・・うん。」
彼女は最後にニコリと笑顔を浮かべて、奥に行った。
「元気でね」
お互いにそれ以外の言葉が見つからなかった、
でも、今の二人にはこの言葉だけで十分だったのかもしれない。
歌で充分に分かり合えたのだから。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
仁「・・・姉さん。」
手に花の枝を持って、仁木は病院に訪れた。駅に行ったついでに来たのだ。
仁木の姉の部屋は、もはや過去のような集中治療室の面影はない。
普通の日当たりの良い303号室、一応脈拍のチェックは行ってるようだがほとんど眠ってるのと同じだ。
奇跡的な回復だと病院の先生は言う、どうして急に?と不思議がっていた。
面会もいつでもできる。ただ目を覚まさないだけ、ただそれだけなのだ。
仁「姉さん・・・今日はこれ持ってきたよ。」
花の枝を花瓶に飾る。その花とは・・・・桜。
仁木は窓を空けた。暖かい風と共に花びらが部屋に入ってきた。
仁「あ・・・こっからも桜見えるんだね。わざわざ持ってくる事もなかったか・・・。」
仁木はベッドで眠っている姉の横に座り、手を握った。
仁「もう僕も大学生だよ・・・。とうとう姉さんよりも上の学年だよ・・・。
早く・・・早く目を覚ましてよ・・・。姉さん・・・・。」
布団に顔をうずめ涙を流す、もう何度も同じ事をした。姉は目を覚まさない。
・・・
日当たりの良い303号室に暖かい風が吹く・・・・。
昨日遅くまで起きていたから、仁木はいつのまにか眠ってしまった。
姉の手を握ったまま・・・・・。
・・・
とっておきの夜は過ぎ去り、真っ白な天使は消えていった・・・・。
しかし今・・・・二人の周りに薄紅色の天使が舞い降りている。
彼の新しい旅立ちを祝福してくれるかのように・・・?
いや・・・この姉弟がいつか一緒に笑ってカラオケに行けるようにだろうか・・・。
遠くで子供達の歌声が聞こえた気がした・・・・・・・。
〜♪〜 〜♪〜
さーくーらー さーくーらー
〜♪〜 〜♪〜
- 第1部 完 -
ふ〜・・・ついに終わってしまいました。「カラオケ物語 第1部」
長かったですねぇ・・・実際途中何度か挫折しましたもん。
でも、無事に終了する事が出来ました。皆様応援ありがとうございました!
さて・・・次回の物語は・・・・「第二部」です。
この物語は今までの物とは形式を変えてお送りするつもりです。
そして、ここのHPの「メイン」になるくらいの内容にしようと思います。
要するに、自分のカラオケの「考え方」「知識」等などを総動員して書くつもりです。
物語を書くことで、新たな考え方がまとまってしまうかもしれませんしね。
キャラは・・・仁木友信は相変わらず主人公レベルですが・・・。
第1部のキャラは・・・後は堅野君くらいしか出す予定はありませ〜ん。
ほとんどが新キャラでの物語です。さて、どんな物語になるのでしょうか?
まぁヒントとして・・・まず第一部にサブタイトルをつけるとしたら?
まぁ・・・この物語にサブタイトルをつけるとしたら・・・「C.O.D」かな?
なんの略かは分かるよね?そして第二部・・・・すでにサブタイトルは出きています。
そのサブタイトルは!!「J.K.M.C」さぁなんの略でしょう?
さて、第二部が始まる事でアンケートも復活します。
今回のアンケートの内容は、もろに物語に影響する内容になっています。
プラス「考え方」などの良き媒体にもする予定です。
それではまた。「カラオケ物語 第二部」でお会いしましょう〜。
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