「カラオケ物語」
第8話「ある男の華麗なる悩み」後編
仁木 友信=仁 立山 昇=立
三浦 忠志=三 天波麗奈=天
突如仁木のクラスに現れた、演劇部部長。
その男がいきなり仁木に入部を願った!
あまりにも突然の事に、仁木はびっくり!
さて、これを聞いた回りの反応は・・・・?
「あ・・・あのぉ・・・」
ここで出てきたのは、仁木のクラスの「その他大勢」の一人。
「内ら三年生って確か、もう部活動に参加できないんじゃ・・・。」
そう、この学校は三年生になったら「学校祭」を境にして、部活動を引退する事になるのである。
幾つかの例外はあるが、演劇部も学祭での演劇を最後に、三年生はすべて引退したのである。
その言葉を聞いた演劇部部長は・・・
三「あ・・いや・・・その・・・『入部』じゃなくて・・・。」
さっきの勢いとは裏腹に、しどろもどろになってしまった。
しばらくして仁木は、
仁「あの〜・・・どう言うつもりか知らないけど・・・。僕、演劇とかするつもり無いから・・。」
すると、
三「いえ!そんなんじゃないんです!演劇に参加してもらうんじゃなくて・・・。
一度内の演劇部の劇を見に来て欲しいんです。そして何かアドバイスとかもらえたら・・・。」
「はっ?」
仁木はまた驚いてしまった。
仁「そ・・・それは・・・僕に演技指導して欲しいって事?そんな無茶な・・・。」
三「あ・・いや・・その・・指導とまでは行かないまでも・・・なんと言うか・・・・・」
すると・・・。
立「ダーー!!」
立山がいきなり吠えた。
立「全くぅ!なんか煮え切らないなぁ。とりあえず今日、おたくんとこの部室に
仁木が行けば良いんだろ!そこで演劇でも何でも見せてやればいいじゃねぇか!」
仁「ちょ・・ちょっと立っちゃん・・僕まだ行くって決めてな・・・。」
立「行くよな!絶対行くよな!今日は暇だもんな!」
仁「あ・・・・は・・・はい・・。」
立「はい、決定!それじゃあ今日の放課後、演劇部の部室に行くから、後はよろしく。」
三「あ・・・は・・はい、それでは待ってますんで・・・・。」
部長さんは仁木のクラスを後にした・・・。
仁「たっちゃ〜ん、俺・・・演技指導なんか出来ないよ〜。」
立「まぁ・・・あのまま続いてたら何時までたっても話は成立しなかったんだから、
とりあえず行くだけ行ってみれば良いんじゃないか、俺も行ってやるからさ。」
仁「ん・・・?演劇部って・・・たっちゃん・・・まさか狙ってたんじゃ!」
立「あ・・・・・・・ああ!そうそう、あの演劇部の名前なんだけどさぁ。」
仁(はぐらかしたな・・・・)
立「名前は『三浦忠志』大会のときは『Dive to blue』歌ったんだって。」
さて、放課後・・・。
ホームルームを終え、仁木と立山は一路演劇部へ。
仁「全く・・・何かまんまと策略にはまったような気がするなぁ・・・。」
立「そんな事ないない。向こうからの誘いに乗らない手は無いって。」
仁「誘いって・・・やっぱりたっちゃん、あの娘目当てで・・・・!!」
立「あ・・・そろそろ部室じゃないか?」
仁(ま〜た、はぐらかした・・・・。)
ガラガラガラ・・・・。
仁「失礼しま〜す・・・・。」
二人が演劇部部室の中を見渡すと、もうすでに何人かの部員がそこにいた。すると。
「あなたが仁木さんね。」
一人の少女が仁木に声をかけてきた。
仁「あ・・は・・はい、そうですけど・・・。」
「どうも初めまして、私ここの演劇部の副部長やってます。佐内って言います。
仁木さんの事は部長からも部員からもよく聴いてます、よろしく。」
仁「あ・・・ああ、はいよろしく。」
お互いに礼をする。
「もう少ししたら部員も集まってくるんで、もうしばらくお待ちくださいね。」
そう言うと、向こうのほうに行ってしまった。
仁「礼儀正しい人だなぁ・・・。」
立「それに・・・結構可愛いよなぁ・・・。」
仁「・・・お前って・・・。」
しばらくして、徐々に部員がたくさん集まってきた。
人が多くなるに連れて何やらだんだん緊張気味になってきた男二人。
立「お・・おい、仁木・・・。」
仁「な・・・何・・・?」
立「こ・・・ここって、何でこんなに女ばっかりなんだ?」
仁「う・・・うん・・僕もそう思った・・・。やっぱり演劇部だからじゃない?」
立「それも、結構いけてるやつとか多くない?」
仁「う・・うん・・・・ほとんどが平均点超えって感じだね・・。」
立「ほら・・・あの右隅にいる女の子、すっげぇ可愛くない?」
仁「えぇ?それよりも、あの左のほうで喋ってる、ショートカットの娘の方が良くない?」
立「・・・・なっちゃんに言ってやろ・・・。」
仁「ちょ・・ちょっと待った・・・!今の無し無し・・・。」
立「ふ〜・・・・。それにしてもあの娘はまだ来ないのかなぁ・・・。」
立山がそう思った矢先。
ガラガラ・・・。
天「おはようございま・・・・あれぇ?仁木先輩と立山先輩じゃないですかぁ。
どうしてここにいるんですかぁ?」
すると立山は、少しシャに構えて・・・・。
立「ふっ・・・それは・・・君に会いに来たのさ・・・」
指先を彼女のほうへ伸ばした・・・。
天「は・・・・?」
仁(ヤバイヤバイ・・・立っちゃん、引いてるって・・・・。)
立山君、少し汗・・・・。すかさず仁木がフォロー。
仁「・・・・と言うのは冗談で、ここの部長さんに呼ばれたんだよ。」
天「えぇ?部長が?なんでだろう?昨日と言い今日と言い・・・一体・・・。」
しばらくして・・・。
・・・ガラガラガラ・・・・。
三「は〜い、みんな集合〜!」
三浦部長は部室に入るなり、いきなり号令をかけた。
三「はい、それでは今日も前回と同様通し稽古をします。みなさんすぐに準備にかかってください。
・・・それと・・・今日は特別にあの後ろの方に劇を見てもらいます。皆さんも知ってると
思いますが、仁木友信さんとその友人です。それではよろしくお願いします!」
「お願いしま〜す!」
部員達は早速準備にかかった。
三「仁木先輩!来てくれてありがとうございます!」
仁「いや・・・まぁ・・・約束したしね、でも・・本当に何も出来ないと思うけど・・・。」
三「・・・頼んだ手前あれですけど・・・その事はあまり気にしないでください。
別に何も無ければ、何も言わなくて結構ですから・・・あ、副部長!お茶か何か買ってきてよ!」
仁「あ・・・そんなお構いなく・・・。」
三「いえいえ、今日はお二人ともゲストですから・・・・。」
そんなこんなで話をしてる間に準備は終わり、いよいよ通し稽古のスタート!
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さて、ここで今回の演劇の内容を説明しよう。
舞台背景はロシア風、しかしそこは戦争の真っ只中。
その中に、数人の少年少女達がそれぞれの夢を持って力強く生きている。
しかし・・・そのうちの一人が戦火に巻き込まれ殺されてしまう。
そして・・・そこから、彼らの運命が変わっていく・・・。
と言うストーリー、あまりひねりは無いが少し感動的な話になっているようだ。
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戦争をイメージしたような、音楽が流れてきた・・・・。
天「ここは、少し昔のとある国の古びた町・・・・・・・・。」
立「あ、天波ちゃんだ・・・。あんなに可愛いのに、なんでナレーションなんだろう?」
仁「し!・・・静かに・・・」
ナレーションも終わり、数人の少年少女が出てきた。
戦火から避難しているようだ・・・・。
やがて戦火も消え、一時平和な時間が流れる。BGMもそんな感じだ。
そして、その数人の男女が幾つかの前振りを経て、色々な夢の話をしだした。
ここで、一人一人が声と体で自己表現をする。
しばらくして、みんなは別れ別れになり、舞台は暗転(する事になる)
そして、夜。またしても戦争イメージの音楽が流れ出す・・・。
暗闇の中、あわただしい音が聞こえてくる。その中で何人かの少年達の声も聞こえる。
その中、いきなり一発の銃声! パタリと倒れる音が聞こえた。
次ぎのシーン。朝になり、再び一時平和になった町、その中で一人倒れている人物を発見。
それは・・・戦火に巻き込まれて死んだ、少年少女達の一人であった。
すすり泣くもの、大声をあげるもの、号泣するもの、いろんな状況を演じているようだ。
その後、数々の展開が・・・・!
少年のうちの一人が、無謀にもナイフで銃を持っている兵隊に襲い掛かる!
「ペンは剣よりも強し」戦争についての執筆活動をはじめた少女!
戦争が終わり、代表者みたいな人に石を投げつける場面・・・・。
色々なシーンを経て、通し稽古は終了した。
パチパチパチパチパチ・・・・・。
もうすでに観客と化している立山と仁木による拍手である。
そして・・・・
三「どうだったでしょうか?」
稽古も終わり、再び三浦が仁木たちの元に話し掛けに言った。
立「いやぁ・・良かったよ。結構本格的でびっくりした。みんな演技上手いねぇ!なぁ仁木!」
すると仁木は・・・。
仁「え・・・ああ!うん。良かったよ。でも・・・・・・。」
「ん・・・?なんですか?」
仁「全体的に見ると、演技力に差があるような気がしてならなかったんだよね。
例えば、君はもう凄い上手かったんだけど、他の男子とかはちょっと・・あれだったし・・・。
後、『夢を語る』ところの表現とかも、もっと良い表現方法があると思ったんだけど・・・。」
立「お・・・おい・・仁木・・・。」
三「ふ〜ん・・・例えばどんな表現ですか?」
仁「例えば・・・夢見がちな少年ってさ、その夢を語るときって一番楽しそうになると思うんだよ。
そして、その語ってる事を想像しながら話すと思うんだよね。でも、よく見ると
そこんとこの表現が・・・なんかこう・・・漠然としてるような気がするんだよね。」
三「う〜ん・・・言われてみれば・・・。じゃあ具体的にどうすれば良いですかね?」
仁「・・・・例えば・・・語ってるときにそれを想像してるような演技が欲しいかな?
こんな風に、目をつぶって、手をこう組んで、少し上を向いてみたりとか・・・・」
立「お・・・おいおい・・・仁木ぃ」
三「他に何か気づいたこととかありますか?」
仁「う〜ん・・・『僕だったらこうする』と言うのなら結構あったけど・・・。」
三「一つ一つ、出来る範囲で部員達に教えてくれませんか?」
仁「ええ・・・良いですよ・・・。」
仁木は三浦に連れられて、部員達の大勢いる方へ・・・。
立「に・・・仁木・・・・お前・・・・どうしたんだ?」
しばらくして、仁木による演技指導が始まった。
一人一人に、より具体的なアドバイスを送り、ほぼ全員がその言葉に納得していた。
仁「ここは、こう一歩前に出て伸びるように動けば、その分壮大なイメージが・・・・」
仁「ここで、体や声が震えていたら、自分のこれからする事における重大性が伝わって・・・」
仁「ここでは・・・ほら、こんな感じで『崩れる様に』泣いた方が、その分絶望感が・・・・」
天「・・・部長・・。」
三「ん・・・どうした?麗奈。」
天「仁木さんって凄いですね。たった一回見ただけでこんなにアドバイスが出来るなんて・・・それも、
みんな超的確。これは演劇全体のレベルが上がりますよ。部長はこうなる事知ってたんですか?」
すると少しの沈黙の後、三浦は話し始めた。
三「・・・・仁木先輩のカラオケを始めて見たとき、俺は絶句したよ。『なぜこんな事が出来る?』
ってね、普通は思いもつかない様な表現を、あの人は簡単に出していたんだ。
そして思った。あの人はきっと誰よりも『人に伝えるやり方』と言うのを知っているってね。
そして・・・俺には無いものを持っている・・・演劇家としてもっとも大事な感性を・・・。」
天「・・・ぶ・・部長・・・もしかして・・・最近様子がおかしかったのは・・・。」
天波が彼の顔を覗きこむと・・・・。少し涙目になっていた・・・。
三「ん・・・・?あ・・・ははは、どうしちまったんだろうな・・・・。
それで、あの人に一度内らの演劇を見てもらおうと思ったんだ。独特の表現力と発想力を持った
あの人ならきっと、良いアドバイスをくれると思ったからね。それで・・・思った通りだった・・。」
天「・・・部長・・・・。」
見れば、彼の目から少し涙がこぼれた様に見えた。
三「悪い・・・ちょっと出てくるわ・・・。」
三浦は部室を後にした・・・。
しばらくして
「きっと、認めたくなかったんでしょうね・・・・。」
天「えっ?」
ふと、天波の隣にいつのまにか副部長の佐内が立っていた。
「自分に無い物を持ってる人がいる事・・・それが同じ演劇してる人ならまだしも
演技なんかした事もないような、人にそれを見てしまったらね・・・・。
でも、あの歌見たときに・・・三浦君、気づいちゃったんだ・・・。」
天「それって・・・。佐内ちゃんは部長の事・・・知ってたの?」
「何となくね・・・。私もあの日仁木さんの歌見たときに、気づいちゃったもん。
『この人は何か違う・・・。何か凄いの持ってる』ってね。でも私は、
それが何かまでは分からなかったけど、三浦君はそれが分かってしまってたんだ・・・。
それが、演劇家にとって大切なものである事、そして、自分には無い物ってね。
そして・・・悔しかったんでしょうね。演劇家でもないのにこれほどの才能を持ってる
人がいる事に・・・、でも・・・それを認めざるを得なかった・・・。」
二週間後・・・・。
仁「今頃・・・表彰式ぐらいかな・・・どうなっただろう・・・。」
立「ああ、見に行きたかったなぁ。こうやってパンフも貰ったのに・・。」
結局仁木と立山はバイトを休む事も出来ず、演劇を見に行く事は出来なかったのだ。
立「でも・・・もし最優秀賞とかだったら・・・。きっとお前の指導のおかげだぜ・・。」
仁「いやぁ・・もしそうなったとしても、みんなの演技力のたまものだよ。」
立「でも、本当にどうなったのかな・・・。う〜ん気になるなぁ!」
仁「ちょ・・・ちょっとたっちゃん。そんな大きな声で・・・仕事中・・・」
その時・・・
カランカラン・・・。
立「あ・・・いらっしゃいま・・・・あ!!」
三「あ・・・、確か立山先輩でしたっけ、仁木先輩も・・・確かここですよね。」
立「そ・・・そんな・・知ってるはずが無いのに・・・。誰に聞いた?」
三「いや・・・あの・・天波に・・・。」
立「嘘・・・教えちゃったのね・・・。秘密って言ったのに・・・・。」
仁「どうしたん・・・。あ!三浦君。」
三「あ!仁木さん。ちょっと相談があるんですが・・・。」
仁「そんな事よりも・・・発表会!どうだった!」
三「は・・・はい・・・優秀賞でした・・・・。」
仁「おお!本当!おめでとう!」
三「は・・・はい・・・ありがとうございます。仁木さんの指導のおかげで・・・」
仁「ん〜ん、そんな事無いけど・・・・あれ?何かあまり嬉しそうじゃないないね・・。」
三「・・・・実は・・・大変な事になってしまって・・・・」
すると・・・・。
三「仁木さん! 僕に力を貸してください!」
いきなりの嘆願に仁木一同びっくり!
部長の悩みはまだまだ続くのでした。
-end-
次回はクリスマスも近いと言う事で、
クリスマスソングを題材にして作ろうと思います。
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