「カラオケ物語」 第8話「ある男の華麗なる悩み」前編
仁木 友信= 立山 昇= 部長=部 天波麗奈= 「ハ〜・・・・」 時は放課後。場所はとある部室. 一人少年がもの思いにふけっている。 見れば、結構男前、その黄昏は正に絵になっていると言った所か・・・。 ・・・ガラガラガラ・・・ 一人の少女が入ってきた。  「あれ?部長いたんですか?電気もつけないで・・・。」 「あ?・・・あ・ああ、おはよう。」  「どうしたんですか? 何か最近全然元気無いじゃないですか。  彼女と喧嘩でもしたんですか?」 「・・いや・・・別に大したことは・・・。」  「やっぱり何か悩んでるんですね。部長、相談ならのりますよ。」 「いや・・本当に大丈夫だから、気にしないで。」 しばらくして部室に人が集まってきた。 騒がしくなってきたそこは、見てみると圧倒的に女性が多い。 そしてしきりに、何かの練習をしている。 台本を見ながらセリフの言い回し、振り付けの見せあい・・・。 そう、ここは「演劇部」である。 この学校の演劇部は、結構色々なことをする。 普通の演劇はもちろんの事、台本作り、ミュージカル、人形劇、等など・・・。 それぞれの活動は、大抵が特定の人しかしない事だが、 演劇だけは、すべての部員たちが一丸となってすることになっている。 ・・・で今は、来月行われる演劇発表会に向けてひたすら練習の日々を送っている。 しばらくすると、一人の部員が彼の元に近づいてきた。  「あの・・・部長、顧問が職員室に来るように言ってましたよ。」 「え・・・、あぁそう、ありがとう。」 彼は部室を出ていった。 彼のいない部室内で、彼の噂話が・・・・。  「部長、最近おかしいよね。」  「うん、絶対に何かあったよね。」  「やっぱり、彼女とけんかしたのかなぁ?」  「でも、そんな風にはみえなかったよ。」  「でも、あの時・・ほら、この前の学祭の打ち上げのとき・・・。」  「そうだよね、あの時変だったよね、一人で黙っちゃってて・・。」  「いったい何があったんだろう・・・?」 「失礼します。」 ・・ガラガラ・・・ 彼は、職員室に入って辺りを見回す。一人の先生を見つけて近づいていく。 「先生。」  「ん・・・?ああ、おまえか。ちょっと大事な話があってな。」 「何ですか?」  「この前の学校祭の時に、演劇を見にに来てくれた人がいただろう、覚えてるか?」 「んんと・・・はい、確か大学で演劇の指導をなさってる人ですね。」  「ああそうだ、その方がお前の演技力について、大変すばらしいと言っておられた。 そこで・・・・・今度ぜひお前にその大学の演劇に出てもらいたいとおっしゃって来たんだ。」 「はぁ・・・・・・ぇ?・・・・ええええ〜!?」  「ははは、まぁ驚くのも無理もないと思うが、今回のそこの大学では『ミュージカル』を  やるそうなんだ、しかし、今回そのミュージカルのできる人員が、かなり少ないらしいんだ、 そこで、この前の演劇を見て、ぜひお前を使いたいとの事だそうだ。」 「で・・・でも、あそこの大学の演劇部って確か・・・かなりレベルが高いって・・・。」  「大丈夫、お前は確かミュージカルの経験もあるし、内の部の中で誰もが認める、一番優秀な 部員なんだから、それに今回の舞台が成功したら、そこの大学の推薦枠も考えると言ってたぞ。」 そう、先生が行った後、彼は考え込んでしまった。 「・・・・・・少し・・・・考えさせてください。」 「え・・・?ああ、別にかまわんが、発表会の日までには決めてくれよ。」 彼は職員室を後にした。 「あいつも変わったなぁ・・・。今までだったら即OKどころか、自分から申し入れ  するぐらいだったのに・・・・・『学祭』の時か・・・一体何があったんだ・・・。」 彼が部室に戻ると、そこにはほとんどの部員たちが集まっていた。 「は〜い!!みんな集合!」 部員たちは、一斉に彼の元に集まった。 「はい、演劇発表会まで後残り二週間です。今日は最初から通し稽古をするんで、  すぐに準備してください。欠席者の代役は後で僕が決めます。それではお願いします。」 部員たちは、各々の仕事に回った。 「副部長、今日の欠席者は?」  「ええと・・・。今日は、渥美さんと、小川さんと、浜田さんと、渡部さんがお休みです。」 「ふぅ・・・最近欠席者が多いな・・・。練習時間も残り少ないのに、たるんでるんじゃないか?」  「みんな、一身上の都合とかで・・・、あ!きょう天波さんもお休みでした。」 「な・・何!麗奈もか!?」 「さあ!!、皆様大変長らくお待たせいたしましたぁ!今年のカラオケ大会の優勝者にして、  最強のカラオケマスター・・・その名も、仁木友信君の登場です!!」 ワァー!!!! 歓声と共に前奏が流れ出す・・・。 それと同時に仁木友信がステージに上がった。 マイクを持ち一呼吸、いつもと変わらないコンディションだ。 「数多くのレパートリーを持っている仁木君、今回の曲は小川さんからのリクエスト曲です。  さて、その曲は・・・・・・・iceman・・8番目の罪!」 〜♪〜歌唱中〜♪〜 観客の中に一人マイクを持ってる人がいる。小川さんがハモってるのだ。 いきなりこう書かれても、まだピンとこない人がいるかもしれない・・・。 そう、ここはカラオケBOX。例のごとく、あるクラスが仁木といっしょにカラオケしてるのだ。 今回のクラスは2年5組、総じて18名とのカラオケ会である。 いつものように、仁木の歌に感動して震える者もいれば涙する者もいる。 でも、ふと見るといつもと様子が違う・・・わきのほうに一人立っている人がいる。 さっき仁木を紹介した人だ・・・そう、今回のカラオケは司会者がいるのだ。 カラオケの司会者は、次に歌う人と曲名を常にチェックし、それにあった言葉をしゃべる。 なかなか難しいことなんだが、彼女はそれをいとも簡単にやってのける。 さすがに今年のカラオケ大会の司会者を務めただけのことはあるね。 そう、彼女の名は・・・天波麗奈。 〜♪〜終了〜♪〜 「は〜い!ありがとうございました。即興でここまで歌えてしまうとは、さすがですねぇ。  続いては・・・・あ・・今度は私か・・・不祥ながらいかせてもらいます。」 彼女は歌い始めた。 〜♪〜歌唱中〜♪〜 女性にしてかなりの歌唱力を持っている。しかしその上に・・・。 「すごく表現力が豊かなんだよねぇ・・・。」 「ん・・・?なんか言ったか?」 「あぁ、いや、今歌ってる娘、凄いなぁと思って・・・。」 「ああ!そうだよなぁ、もうすっごい・・・可愛いよなぁ・・・。  2年5組が、あの娘のいるクラスだったなんてなぁ・・・。」 「あ・・・・あのぉ・・・歌のことなんですけど・・・。」 「彼氏とかいるのかなぁ・・・。いるんだろうなぁ、あんだけ可愛ければ・・・。」 (聞いちゃいねぇ・・・) 〜♪〜終了〜♪〜 歌い終わり、彼女はまた端っこの定位置へ。 「小川さん小川さん、ちょっといい?・・・。」 仁木は隣の席の女の子に、話し掛けた。 「あ・・はい、なんですか?」 「天波さんって・・・もしかして演劇とかやってる人?」 すると、小川さんはちょっと驚いた表情を見せて、 「え!・・・え・えぇ、私と同じ演劇部ですけど・・・。知ってるんですか?」 すると立山が・・・。 「えええぇぇ〜!天波ちゃんって放送部じゃないの!俺はまたてっきり・・・。」 「麗奈って、演劇の中でもナレーションとかやってる人だから、  よく放送部とかに借り出されるんですよ。この前の大会のときもそうでしたし。」 (そうか・・・そういうことなのか・・・。) 「ところで、仁木。次何歌うんだ?」 「次はぁ・・・これ!」 「・・・・・お前・・・最近『謎な歌』歌うようになったなぁ。」 「ふふふ〜ん・・♪堅野君から、受け継いだんだ〜。こういうのも一曲は入れても良いと思うしね。」 次は仁木の出番、変わった感じの前奏が流れる・・・。 「さぁて、再び仁木さんの登場です。次に歌う歌は・・・え?・・・聞いたことのない歌ですねぇ、  それでは歌ってもらいましょう、曲名は『ハック』。」 〜♪〜 明けた夜の窓から〜 君の事待ってるよ〜     浮ついた夢の中から〜 霧のように現れて〜     猫の声で僕の事呼んで〜 連れてって〜     暗い闇の中震えながらも〜 一度も止まらずに〜     あやふやな呪文で切り抜けて〜 鮮やかな場所まで〜     みすぼらしくてお粗末な〜 自由にくるまった僕らは〜     ふさわしい王国の中で〜 いつもニヤついてた〜んだ〜   〜♪〜 さっきとは違うイメージの声をだし、歌い方はコミカルだが何となく「哀愁」を漂わせるような、 そんな感じである(面白いはずなのに・・・何かもの悲しいのは・・・なぜだろう?) そんな、人を不思議な感じにさせてしまう彼の歌に、みんな引き込まれていく・・・。 〜♪〜 一つずつ積み上げながらも〜 一つずつ冷めていく〜     何かが違う それだけが分かる ずっと下まで駆け下りる〜     み〜すぼらしくてお粗末な〜 自由にまた着替えられたら〜     君のところに変えるからね〜 だからそれまで     僕のことずっと待っていて〜 僕のことずっと待っていて〜     僕のことそこで待っててね〜 親愛なるハック       〜♪〜 ・・・拍手・・・ なんとも不思議な時間を体験したような感覚。でも・・・知らない間に聞き入ってしまった。 カラオケは聞かせたもの勝ちと言うのなら、彼は間違いなく勝者であろう。、 これが彼の「曲選択の妙技」である。 「・・・・・・・・・あ!・・は・・はい次行きます、今度は・・渥美ちゃんかな・・・?」 そんなこんなで、カラオケ会は終了した。   帰り、仁木と立山はいつものように、一緒の道を歩くのだが・・・。 今回、天波が同じ方向であると言うことが分かり、いっしょに帰ることになった。 「今日は本当楽しかったです、ありがとうございました。」 「いやぁ〜、こっちも十分楽しませてもらったよ、名司会者だったね。」 「それに・・・歌も凄くうまかった、大会出てたら結構良い所まで言ったんじゃないかな・・・?」 「そんなぁ〜・・・、でも仁木さんにそう言われるとうれしいな。」 「う〜ん・・・そう?・・・・・あ、そうそう演劇部なんだってね、今、どう言う活動してるの?」  すると、天波は少し焦った感じで、 「え!?・・・あ、ああ、今ね、再来週の土曜日に学校ごとの演劇の発表会があって、  それに向けてみんな練習してる、ちなみに私は、またナレーション役だけど。」 「へぇ〜!そうなんだ、ねぇ、それって俺らも見に行けるの?一度見てみたいなぁ・・。」 「うん!是非見に来てよ、場所は隣町の『中矢倉町』の矢倉公民館ってとこでやってるから。」 「是非行かしてもらうよ。なぁ!仁木。」 「あれ?その日って確かバイトが・・・・。」 その瞬間、立山は仁木の口をふさいだ! 「あ・・ああ・・大丈夫だから、きっと行くよ・・・。」 (あ〜あ、バイト休む気だよ・・・。) しばらくして、立山は少し恥ずかしそうな素振りを見せた。 「・・・・ところでさ・・・天波ちゃんって・・・・彼氏・・・・とかいないの?」 「え?・・・彼氏・・・?ええと・・・私は・・・・。」 すると! 「麗奈!!」 突然後ろから声が聞こえた! 「な・・・なんだ?」 とっさに仁木と立山は後ろを振り向いた。 そこには、そこそこいい男が立っている、 「ぶ・・部長・・・。」 天波はゆっくりと振り返ると、その男は彼女の前まですばやく歩いてきた。 「どう言うことなんだ!?これは。」 「ご・・・ごめんなさい・・・でも、私どうしても・・・」 「弁解はいい!!ちょっとこっち来い!」 その男は、天波を引っ張って行こうとする。 その時! 「やめろよ!」 立山が怒鳴った! 「何があったか知らないけど、そんな強引なのは良くないんじゃないか?」 するとその男は、 「あんたらには関係ないだろ!さぁ行くぞ!」 再び天波を引っ張って行こうとする、 「やめとけって!」 立山は、その男の引っ張ってる手を切ろうとした。 その時! 「あ・・・あの・・・。」 「なんだよ!!だから関係なぃ・・・・って・・・・・」 男は仁木を見た瞬間、「はっ!」とした表情を見せた。 「・・・・ぁあ・・・・あなたは・・・・。」 「あの・・・もしかして、なにか誤解をしてるんじゃ・・・。 僕ら今日、この娘と一緒にカラオケに行って、たまたま帰り道が一緒になっただけで・・・。」 仁木は、この男にいろいろと説明したが、見たところ、彼はそれどころではない様子だ。 「あ・・・あなたは・・・まさか・・・仁木友信先輩・・・・?」 「え?・・・ああ、そうだけど。」 立山が、彼の顔をよく見ている。 (あれ?こいつ・・・どっかで見たような気がするなあ・・・・。) しばらくして彼は・・・ 「し・・し・・失礼します!」 そう言った後、仁木に一礼して走り去っていった。 「な・・何だったんだ?今のは?」 「・・・凄い・・・部長があんなに慌ててるところ始めて見た・・。」 「でもあいつ・・・どっかで見たような気がするんだけどなぁ・・・。」 「それよりも、さっきのってもしかして、演劇部の?」 「う・・・・・うん、うちんとこの部長さん。」 「もしかして・・・・彼氏?」 「え?・・・・う・・・・うん・・・一応ね・・・。」 「ハ〜〜〜〜」立山はがっかり顔でため息をついた。 「え・・・でも一応って・・・・?」 「最近部長さん元気なくて、なんか『自信を無くした』みたいになってるの・・・。  毎日ため息ばっかり・・・昔は凄い自信家だったのに・・・。それで最近  話とかもろくにしなくなっちゃったし、少し倦怠気味なのよね・・・。」 ニヤリ ん?少し、立山の表情が明るくなったような? しばらく歩いて。 「それじゃぁ、私んちここ曲がってすぐだから、今日は本当にありがとうございました。」 「こちらこそ・・・・それじゃぁまた。」 去っていく彼女を見て、 「俺・・・決めたぜ。」 「何を?」 「もしあの娘が彼氏と別れたら、告白する!」 「・・・・ま・・・まぁ、頑張ってな・・。」 次の日の朝・・・・。 仁木が通学中、後ろから猛スピードで追いかけてくる立山の姿が・・。 「仁木ぃ!」 「あ、たっちゃん・・・おはよう。」 「ああ・・・・それよりも昨日のあいつの事思い出したぜ。」 「昨日のって・・・あの演劇部の部長の事?何?他に何かあった?」 「あいつどっかで見たことあると思ったら・・・カラオケ大会にでてたやつだよ。  しかも・・・4位とってる。」 「え?そんな人いたかなぁ・・・?」 「ああ、俺も最初ピンとこなかったんだけど、俺らあいつの歌聞いてないんだよなぁ。  お前の次の出番だったから、そのころは確かお前・・・。」 「・・・・ああ・・・例の5人に・・・・。」(*本選編後編参照) 「それにしても・・・4位だろ、相当うまいって事なんじゃないか?」 「・・・そうだね・・・一度聞いてみたいなぁ・・・。」 そんなことを話しながら、二人は教室についた。 すると、教室の中に同じクラスでない人がいる・・・。 「あれ?あいつ・・・。」 すると、その男は仁木に気がついたようだ。 「仁木先輩!」 「あ!・・・君は確か昨日の・・・。」 「はい!昨日は天波一同、内の演劇部数人がお世話になったそうで・・」 「い・・・いや・・・そんな・・お世話だなんて・・・。」 「聞けば、内の部で何人も、先輩と一緒にカラオケに行ってると言う話も聞いております。」 「え・・?ま・・まぁ、クラス別だし・・・・。」 「そこで、私にひとつ頼みがあるんですが。」 「え・・・何?」(もしかして、これ以上演劇部を誘うなって事かなぁ・・まいったなぁ) 「私んとこの、演劇部に入ってください!!」 「ぇ・・・・・・ええええええええええええええええ〜〜〜〜!!!!」 突如現れた、最近アンニュイな演劇部部長さん。 こいつがいきなり、仁木に演劇部入部希望宣言!! 一体どうなってるんだ〜!? 続きは次回、波瀾の予感? To be continued-     曲の紹介  「ハック」 「ザ・カスタネッツ」の曲である。(知らないだろうなぁ・・・) 歌詞の感じをみて分かっただろうか?実際ちょっと怪しげ〜な歌である。 曲の感じは結構単調、しかし、次から次へと歌詞が出てくる感じで 意外と難しめの歌である。聞いた感じは淡々としてるようで しかし、何となく引き込まれていくような気がする感じがする・・・。(作者感で・・・) さて、今回仁木は非常にマイナーな曲を歌ったわけだが、 当然、パートナーのみんなも初めて聞いた歌である。 しかし、その「はじめて聞く」と言うのが、カラオケではものすごい賭けとなる。 こういう歌は、下手に歌えばすぐに飽きられてしまう。 しかし、上手く歌えば「何だろう?」と興味を引いて聞こうとする。 今回の仁木はパートナー全員をその歌に引き込んでしまった。 それが出来たのは、やはり彼が非常に上手いからである。


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